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違和感
「そうですか。はぁ……、まぁいいんじゃないですか」
クゥコさんの帰りはヤォさんが想定していた以上に遅かったので、私は部屋の掃除をしている最中でした。
掃除の手をやめ、素早く台所に向かいます。
ぐったりと疲弊して、大量の服を片付けたテーブルにどさりと置き、椅子に腰かけたのを見計らって、よくわからない茶葉で煮出したお茶をクゥコさんの前に置きます。
中身を確認して一口、口に運んでくれました。
ヤォさんが簡潔に私を雇う経緯を話すと、クゥコさんは二つ返事で了承します。それほどこだわりはないのでしょう。
「良かったな、嬢ちゃん。ァバさん所、かわいい服いっぱいあるなぁ」
ヤォさんが一枚広げると、シックなデザインで袖口の広いワンピースのようなものでした。
色合い的には素朴で襟や袖には刺繡が施されています。
「クゥコさん、ありがとうございます」
「べつに」
コトンと飲み干したコップを置きました。
どうしてこんなにも遅くなったのかというと、ァバさんとはこの街にある雑貨屋さんの店主の奥様のようで、そのお孫さんの服を譲って貰ったようです。
その引き換えにクゥコさんは長話に付き合わされたとか。
「早速着替えてみなよ、嬢ちゃん」
「いいんですか?」
社交辞令で遠慮しましたが、濡れてしまった服はべとついてしまっていたので早く着替えたい気持ちはありました。
別の部屋で着替えることにクゥコさんが不思議な顔をしながら、――これは多分、人形の姿なのに羞恥心があるのかといった感覚なのでしょうが――私だって多少の恥じらいはありますよ。
ごちゃごちゃと物が散乱している部屋の片隅で、着ている服を脱ぎます。
下着は三角パンツではなく、ドロワースのようです。
皮膚の感触はあまりないのですが、厚みのある織りの良い布地が使われているようです。染まりもいいので、普段着ではなく人形用の衣装という感じなのでしょう。
譲って貰ったお孫さんの服は風通しのよいリネン素材のようです。
つまるところ、ここの気温はきっと暖かいのでしょうか。
「……?」
裏っ返しになった服を畳もうとして、見慣れたソレに気づきました。
左側についたタグには『MADE IN MOE』と。
既製品? 気になってお孫さんの服の内側を探ってみても、それらしきものはありません。
全部を調べてみても、みつかりません。どうやら手作りのようです。
親近感のあるものに明らかに違和感を覚えましたが、考えても仕方ないと、一旦横に置いておきましょう。
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