違和感

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 井戸端会議とはいったように井戸の周りには三人ほど、二十代から三十代ほどの女性がおしゃべりをしていました。  つるべ式の物を想像していたのですが、少し進化して手押しポンプのようです。  さすがに挨拶もなく、割り込むなどという不届きは致しません。 「こんにちはぁ」  幼い風を装い、お手伝いで来たんですという雰囲気を醸し出します。 「あらこんにちは。見かけない顔ね」  どうもこの世界。基本的に全身を布で覆うのがスタンダードのようです。布の色は様々ですが明るい雰囲気の女性が反応してくれました。  うっかり着の身着のままで来てしまいましたが、大丈夫でしょうか。  クゥコさんもヤォさんも何も言ってくださらなかったですし。いや常識過ぎて気にもしなかったのか。  ちなみにいまさらですが言葉が通じるのは、人形を通して変換してくれているのかもしれません。 「あの、ヤォさんとクゥコさんのところでお世話になっています」  個人情報厳守主義社会で生きてきた私からすると、名前を出すのは心苦しいですが、素性の分からない人物を相手にするのは向こうも警戒するでしょうから。 「え、ヤォさん!」 「うそっ!」  と残りの女性二人もにわかに弾んだ声色を響かせます。  『何でも屋』をしているせいもあってか、どうやらこの街ではお二人は有名人のようです。  まぁ見た目がいいですからね。  おまけにヤォさんは無自覚に大人のフェロモンをまき散らしているようで、老若男女問わずひっそりと想いを寄せている人は多いとか。  ――クゥコさんの胸中を思うとクワバラものですが。  そんなおかげで彼女たちとはすぐに打ち解けられました。  皆さん結婚してらっしゃるようで、ここで会うのは恒例のようです。  精神年齢は近いこともあり、当たり障りのない会話で情報収集していきます。 「ところでリンちゃんは、二人とはどういった関係なの?」  しばらくして当然と言うべきか、訊ねられました。  しまった。設定考えていませんでした。  迷子――で乗り越えられるでしょうか。  変に設定を盛ってしまうと、後で辻褄が合わなくなりますし。 「えっと、道に迷っていたところをクゥコさんに保護していただきまして」  まぁ空から落ちてきたとは言えませんしね。   「あー、あのクゥコ」  あれ?  一気に辛辣な空気になってしまいました。 「まったくアイツ、あたしが寝不足だからよく眠れる薬調合してって頼んだら、薬に頼るなって断るし。枕もとに置いとけって薬草の入った袋よこしてくるし!」 「わたしだって手がみっともなく荒れているって指摘してきて、軟膏投げてきたわ!」 「うちのお祖母ちゃんもこの前、歩くのが遅いって荷物持ってくれたみたい」  んんん?  どうにもクゥコさん、口が悪いだけで不器用といいますか。  彼女たちの言葉の端々には、少しばかりの好感が滲み出ています。  それから取り留めのない家庭内の愚痴が飛び交ってきたあたりで、私は早々とその場を立ち去ったのでした。  今度は洗濯をしなくては。
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