来訪者

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 夜の帳が降りた頃。  ヤォさんの食欲はあまり芳しくなく、夕食は少しばかり静かなものでした。  コン、コンコンコン、コンコン。  妙な節回しのノック音が耳に響きました。  ドキリと心臓が跳ね上がる気分です。人形の身なので気持ちが、ですがね。  クゥコさんが言っていた使いの方でしょうか。  私が出たほうがいいのか、躊躇っているとクゥコさんが素早く玄関の前に立ちます。私も何となく後に続きます。それからゆっくりとヤォさんも。  扉越しに短い合言葉を交わした後、玄関が開かれます。  灯りのない暗闇で、フードをかぶった外套からは白い肌だけが覗いていました。  肩には白いフクロウが。 「我が君。久方ぶりの再会に、このような姿で申し訳ございませぬ」  勝手に想像していた性別ではなく、凛とした女性の声でした。  恭しく頭を下げ片手を胸に、片膝を折ります。  きっとこれが最敬礼なのかもしれません。 「久しぶりだな、ヘィセ。とりあえず中に入れ」  ヤォさんとは違う、クゥコさんの主従の関係のような態度をみて、思わず神妙な気持ちになります。  ヘィセ。日中に聞いた名前ですね。 「失礼いたします」  フードを脱いだヘィセさんの顔立ちに、私は驚きの声を上げてしまいました。 「――えっ!」  それは私には見慣れた容貌だったからです。  栗色のゆるいウェーブがかかった髪に、翡翠色の瞳。  整った顔立ちと小柄な容姿も相まって、本当に可愛らしい西洋人形そのものです。  この世界では少しばかり異質な雰囲気に、動揺が隠し切れません。  そんな私の心情など露知らず、ばっちりとヘィセさんと眼が合うと、彼女は大輪の花のように顔を綻ばせました。 「おおっ! イチマル! 無事だったのか! 連絡がつかなくて心配していたのだぞっ!」  逃げる暇も抵抗する間もなく頬ずりされます。  華奢な身体つきのわりに、がっちりとホールドされて身動きが取れません。  どういった反応をしていいのか。  とにかく私が入っている人形は、ヘィセさんにとっては大事なものなのは分かりました。 「それぐらいにしろ。嬢ちゃんが困っているだろ」  ヤォさんの静止の声に、ヘィセさんはピタリと頬ずりを止めました。 「まだ生きていたのか。死にぞこない」  忌々しげに吐き出しました。
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