38人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「あいにくな」
険悪なムードというわけではなく、どこか盟友じみた雰囲気で言葉が交わされます。
ヘィセさんから離れたと同時に、素早くその場を遠のきます。またぎゅっとされては困りますから。
「出不精のお前がどうして外に出てきた?」
「はんっ、引きこもりでは無いわ! わかりきったこと! お前――もうすぐ死ぬだろ?」
「……死なねぇよ」
低く苦い声が響きます。
それは図星であり、足掻きのようにも聞こえました。
「ふん。お前はどうなってもいいが、我が君、クゥコ様が悲しまれるのは私とて本意ではない!」
投げつける勢いで小瓶がヤォさんに向かうと、彼は易々と片手で受け止めます。
「即効性はあるが副作用がある」
そんな説明をする前に、ヤォさんは躊躇なく小瓶の中身を飲み干しました。
「お前が、クゥの眼の前で悲しいことはしない」
「ふんっ!」
「ヘィセ、準備は出来た」
いつの間にか外出用の支度を済ませていたクゥコさんは、外套を羽織ります。
「我が君。この足手まといの男は置いていきましょう」
ヘィセさんは嫌そうな顔つきで指をさします。
チッと舌打ちと同時に、
「どっかの大莫迦が運搬用の人形を壊したおかげで、一体しか用意できませんでした。我が君、道のりは長いです。どうぞお使いくださいませ」
「だったらヤォ、使ってください」
ヘィセさんの気遣いは、そのままヤォさんに移行されます。
運搬用というのは、昨日襲ってきた黒い人影のようです。
私を救うためにどうやらヤォさんが破壊してしまった模様。
複雑な命令は出来ないようですが、力持ちなので物を運ぶには適しているようです。
「俺はいい。だったら嬢ちゃん運ばれてくれ」
小さい身体なので歩幅は確かに短く、疲れない代わりに時間はかかることは確かです。
どんな薬を飲んだのか。
先ほどまでとは比べ物にならないほど、健康的な顔つきのヤォさんです。
多分強力な回復薬なのかもしれません。
歩行に支障がないほどの。
「私の研究所まではかなり時間がかかります。すぐに出立いたしましょう」
どうやら私の抽出はヘィセさんの研究所でするとのこと。
外は暗く。
静まり返った街を、私たちは出掛けることになりました。
それにしてもなんと言いますか、ヘィセさんの口調が私の知っている世界と交じるのは気のせいでしょうか?
最初のコメントを投稿しよう!