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「まったく、莫迦ヤォ! どうして吾輩のクロマル号を壊したんだ!」
「いやまぁ、ソゥラと同じ型だったし、俺もちょっと余裕なかったからぁ。悪ぃ悪ぃ、ごめーんな♪」
まるで悪気がないかのようにヤォさんは気楽に謝罪します。
クロマル号はかなり簡易に作れるおかげで、大量生産が可能ですが、逆に耐久性はあまりないとのこと。
核の部分を壊してしまうと、灰塵となって跡形もなく、消失してしまうようです。
昨夜の人影がいなくなってしまったのも、そういうことでしょうか。
それからヘィセさんはクゥコさんの前だと『私』ですが、気の知れたヤォさんの前での一人称は『吾輩』のようですね。
大変仲がよろしいようで。
「まったく、吾輩が開発したクロマル号をアイツらは勝手に使いよって!」
「仕方ないよ。ヘィセの人形作りは完璧だから。だからこそ君の腕は信用できるし、何より勧誘が多いんだろ?」
クゥコさんが合いの手を入れます。
「わ、我が君ぃ!」
褒められたのがよほど嬉しいのか、歓喜に打ち振るわせております。
会話の内容を聞く限り、ヘィセさんの技術はかなり優秀なようです。
それから久しぶりの再会に、昔話に花を咲かせたようで。
私はこっそりと耳を傾けて、盗み聞きさせていただきます。
ヘィセ・アロィさん。
もともと裕福な生まれでなに不自由なく育ったそうです。
けれど小さいときに命に関わる病に罹ってしまった際、ご両親はソゥラ教の奇跡を授かりに多額の寄付をしたとか。
ちなみに金額により『竜の奇跡』の水の濃度が違うようです。
多額のお布施により、ヘィセさんは一命を取り留めました。それこそ『竜の奇跡』だと。
その体験により、ヘィセさんは敬虔なソゥラ教の信者になったようです。
もとから天才的な頭脳の持ち主であるヘィセさんは、周りから理解を得られず、子供のころから孤独だったようです。
幼い時の体験を機に、精力的に竜の住む天空へ到達できる人形の作成に力を入れたのでした。
より良い研究をするために。
まずは運搬用の黒〇壱号を完成させました。
ヘィセさんはただ純粋に、竜の生態を知り、より多くの人々の不治の病を治すべく、研究に心血を注いだのだとか。
そうしてしばらくして、ヤォさんと出会います。
ソゥラ教の闇の部分を知り、自分の人生を変えた開祖の親族のクゥコさんと出会い、考えを改めたとか。
今までの奇跡は竜の悲しみで出来ていた。
その真実を知り、誰もが平等に病を克服できる治療薬を開発したいクゥコさんの志に胸を打たれ、秘密裏にバィヤ教を一緒に創立したとか。
自分がやっていたことは間違いではなかったけれど、クゥコさんとの出会いで意味が全く異なったこと。
その念の意味も込めて、より一層クゥコさんへの忠誠心は深まったようです。
そしてヤォさんも含めソゥラ教を脱会する際、クゥコさんそっくりの人形をつくり、追手が来ないように彼を死亡したことにしたのだとか。
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