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不意に首筋に触れられる感覚がありました。
「僕が渡した迷子札どうしたの?」
クゥコさんが冷ややかな表情で私に問い詰めます。
迷子……あ、リボンのことですかね。
何も言われなかったので、気づいてないのかと思ったのですがどうやらバレてしまいました。
「あ、あれ? どうしたんでしょう?」
まるで今気づいたとばかりに狼狽えます。
素直に謝ればいいものを、怒られたくないのですっとぼけることにしました。
おっちょこちょいを演出するつもりが、クゥコさんの厳しい視線が突き刺さります。
耐えられずにすぐに根負けしました。
「す、すみません」
だって怖いんですもの。
正論なのですが、もう少しヤォさんみたいに優しくして頂いてもよいのでは、と思うのは甘えなのでしょうか。
「ったく。君が迷子になっても必ず、僕の元に帰ってこれるように【祈り】を込めたものを、よくも簡単に失くせるね」
「なんとっ! 我が君からの頂き物とは、う、うらやましいっ!」
ヘィセさんが、ハンカチがあったらキーっと噛みしめるほどの表現で悔しがります。
「リン殿、ことの重大さに気づいていませんね。縁紐はどんなに離れていても、結んだ相手の元に帰ってこられる代物なのですよ。嗚呼、出来ることなら蒐集したいっ!」
「何言ってんの、ヘィ。俺たちはそれよりももっと強力な、縁印を入れてるだろうが」
そういってヤォさんが袖をまくると、二の腕の場所に幾何学模様が刻まれています。
互いの血を混ぜて描きこむことにより、遠ければ何となく、近場であれば正確に、居場所がわかるそうなのです。
ただ縁印を刻むのは、よほどの信頼関係や従属関係の間柄だとか。
つまるところクゥコさん、ヤォさん、ヘィセさんは互いの場所を常に知ることが出来ている状態なのだそうです。
それよりも簡易なのが縁紐。
こちらは【祈り】送った者の場所がわかるアイテムだとか。
ただ簡単に使用できる反面、他者でも安易に送り主の場所を知られてしまう代物なので、一長一短なのだそうです。
それを私は、クゥコさんが気をかけてしてくれた好意を、思いっきり無下にしてしまっているのです。
あれは勝手に鷲が。
そう言い訳がましいこと言うつもりはありませんが、なんだかとんでもない事になっているような。
ふと、
――――!
ひゅっと息が止まりそうになります。(実際は止まらないのですが)
そう。
はるか遠く、砂粒程度にしか見えない場所で、昼間に見た大きな鷲が、私から奪い取った赤いリボンを首に結んでいたのでした。
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