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まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
「そろそろ出立しま――」
焦る思考の中、誰かが話していたようですが全く耳に入ってきません。
幸い誰にも今は気づかれていませんよね。このままそ知らぬふりを――。いやだがしかし、私が気が付いたということは、深淵のように向こうも気づいているという訳でして。
いやそれにしても、なんでいきなりあの鷲が?
――はっ! あのリボン!
送り主の場所を知ることが出来るみたいですし、もしかして私ではなく――クゥコさん……!?
そう考えに至ったとき、ダメだ。黙っていては皆さんの身に何かあっては。
「ねぇ、聞いてる?」
うつ向いていたところを、グイっと顎を傾けられて、思考が一瞬停止しました。
星屑を背景にクゥコさんの表情は静かです。
もともと感情が薄い人ですが、とても整った顔立ちは今も温度を感じさせない美しい宝石のようで。
「あ、えっと……」
どう理論立てて、話したほうがいいのか。
とにかくリボンを盗んだ鷲が。
こんな時間にうろついているのも変ですし、こんな場所にいるのもおかしいです。
「うっ――」
「どした、ヘィ」
思考を巡らせている間、ヘィセさんが立ち眩みで膝をつきます。
冷静になってみれば、血の通っていない人形が眩暈を起こすなんてありえないことなのですが。
「むっ、なにやら外部から随分と攻撃してくるというか……」
片手で視界を覆い隠して、座り込んでしばし沈黙するヘィセさんを見守っていると、周囲を見渡していた白フクロウが慌てた様子で戻ってきます。
「申シ訳アリマセヌ。浸食サレマシタ! 直チニオ逃ゲクダサ……ッ!」
そう忠告する白フクロウが近づいた瞬間、片手で叩き落しました。
「えっ!?」
「クゥ、嬢ちゃん、さがりな」
眼の前にヤォさんの険しい声が届きます。
「………………」
すぅっ、とゆるやらかに立つ姿は隙もなく端然としています。
今までのヘィセさんのほんわかとした雰囲気は、欠片もありません。
「ああ、やっと――、見つけましたよ」
随分と低い魅力的な声が響きました。
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