来訪者②

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 これはチャンスとばかりに???は口元を釣り上げました。  呪われた西洋人形のように歪んだ表情は、こうも中身が違うと顔つきが変わるのかと思うばかりです。  足元に倒れこむヤォさんの反応はありません。  とにかく今はヤォさんの、無事と奪還が最優先事項ですよね。  けれどもちろん、そんなことは???もわかっているようで、ヤォさんの側を離れません。  どうすれば……。 「御子様、一度話を致しましょう」  あくまでも主導権はこちらにあるのだと。  言わんばかりの口ぶりです。 「私は常日頃から『竜の(奇跡)』を所持しています。今でしたらこの男に差し上げてもよろしいですよ」  随分と粋な計らいを、などとは到底思えません。  申し出を受け入れた代わりに、どんな条件を飲まされるのか。 「さすがに疑り深いですね。私の望みは御子様。あなた様の帰還です。亡くなったあなた様が今一度、生存して教会に戻られた際には、それこそ竜の奇跡! 始祖の再来! より一層教団の繁栄が約束されることでしょう!」 「クゥ……にげ、」 「――ヤォ!」  ヤォさんの今にも消え入りそうな、か細い声が耳に届きました。  噛みしめるようにクゥコさんが低く唸ります。  今にも駆け出したい気持ちがひしひしと伝わって。  ――けれど、とりあえずよかった。  もっともヤォさんが動けない以上、事態は何も変わりないのですが。 「アヤツ、ドレダケ我ガ君ノコトヲ、シツコク追イ回セバ、気ガ済ムノカッ!」 「――ヘィセ、それは違うよ。僕を付け回しているのは、君の居場所を探るためだ」  視線を逸らさずクゥコさんは声を潜めます。 「何故デアリマショウ?」  首をかしげる白フクロウは、本当に意図が分からないという雰囲気です。 「君は自分のことを、過小評価しすぎだ。あいつが求めているのは僕ではなく、君の才能だよ。僕を餌にあいつは君を引き入れたいんだ」  クゥコさんを敬愛するヘィセさんの性格を、熟知しているのでしょう。  教団に引き戻せば彼の役に立ちたいと思う、ヘィセさんも戻ってくると。  冷静なクゥコさんの分析はきっと正しいのだと思います。  言葉ではクゥコさんを求めていながら、その先のヘィセさんを求めている。  なんともまぁ、腹立たしいことこの上ないです。 「どうしました? やはりこの男を救う価値はありませんか。ならばいっそのこと、ここで未練を断ち切らせてあげましょうか?」 「――――!」  触手で落ちた曲刀を拾い上げながら、ぐっ、とあろうことか、呪われた西洋人形の足が無抵抗のヤォさんの頭を踏みつけました。  払いのけることも抗うこともできない姿に、言葉を失います。  ヤォさん! 「いい加減にしろ、ジズ!」  さすがにクゥコさんの怒りは爆発です。  身を乗り出して、スリングショットを構えました。 「ヘィセ、すまない。君の人形を壊してしまう」 「カマイマセン! 私トテ数少ナイ友ヲ失ウノハ、目覚メガ悪イデス」 「(リン、周りをちゃんと見てて)」 「!」  そう私にだけ聞き取れる小声で、クゥコさんは弾を放ちました――!
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