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羽化
クゥコさんから放たれた弾丸は三つ。
一つ目。閃光弾。
カッと昼間のように眩い光が放たれました。
思っていたよりも光源は優しく、眼が灼けるといった風はありません。最もこの人形の身体が勝手に調整しているのかもしれませんが。
それから、二つ目。
「ぐっ!」
ヤォさんの側を離れない西洋人形が持っている曲刀を撃ち落とすと同時に、眼くらましの煙が視界を奪いました。
「リン!」
思わずあっけに取られてしまいましたが、私の使命を果たさなくてはいけません。
真っ白な光の中、必死に辺りを見渡します。
リボンをつけた鷲を探さなくては!
必死にきょろきょろと首を動かします。
私たちが隠れている岩陰以外に、周囲には砂漠のように何もありません。
明るくされた空間はある程度を超えると暗闇です。
緊張で焦る中、瞬時に辺りを見渡し異変がないことを確認します。
……いない――!
だったらこっそりとこちらを覗き見するには空中しかないかと、空を見上げました。
きょろきょろ――きょろきょろ。
あっ!
はるか遠い先――。
一点の小さなモノが旋回している場所。
こんな夜に不自然に飛んでいる物体は限られてきます。
ひらりと揺れる二本の影を確認して。
「クゥコさん! あそこ!」
指さした先をクゥコさんは光の速さの勢いで飛弾していきます。
クゥコさんの狙撃の腕は一流なのと、それから射出の速さが尋常ではありません。
今になって思えば、初めて出会った山賊三人衆を同時に倒したのも、魔導の力を加えたものなのだと、実感しました。
砂のような点が一拍あいて力なく落下していく最中――ちらりと視界の端に動く人影。
映ったのは、一矢報いたろうと言わんばかりの曲刀を拾い上げた西洋人形が、ヤォさんに刃を向けていました。
――――――!
考える間もなく私は走り出していました。
まるでスローモーションのように。
???はきっとクゥコさんに精神ダメージを追わせたかったのでしょう。
煙の中でよく見えなくても、振り下ろせばヤォさんに危害を加えられることぐらいは出来ます。
そんなこと。
そんなこと、――絶対、許せません!
こんなことしたら、クゥコさんがどれだけ悲しむか。
もちろんそんなこと織り込み済みなのでしょうが。
だからこそ、こんな卑怯な手を決して成功させてはいけません。
生前もこんなに必死に走ったことなんてないぐらい、手足を動かしました。
幸い息切れしない身体に感謝しなくてはいけません。
間に合うのか?
いえ、間に合わなければ!
「だ……めぇ……!」
無我夢中でヤォさんの前にたどり着いて、――たどり着いて、
途端、――眼の前が真っ暗になりました。
――突然の停電です。
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