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「竜は天に住み、亡くなった遺体は地上に葬送される。けれど地上に至る前に落下の熱で焼け落ち、僕たちが住む世界に姿を見せることはない。稀に舞い落ちる竜の遺灰は万能な薬になるって噂だよ」
そうあたりを見渡すと岩肌がむき出しの殺風景な場所だなと思ったのです。
風に運ばれて砂ぼこりが舞います。
ここは竜の墓場ということでしょうか?
「けれど気高き竜は自分の一部を卑しい人間に利用されたくはなかったんだろうね。採取しに来る人間は竜の呪いによって死に至る」
まるでエジプトの墓泥棒のような言いぐさです。
つまるところ幻のような代物をこの青年は取りに来たということでしょうか?
「このあたり一帯は竜の呪いによって生物が生息できないんだよね。息を吸っただけでも身体を悪くする。まぁこの辺までくればだいぶ瘴気は薄まるけど」
全身を布で覆っているのはそのせいだったのですね。
面妖な装いに不思議に思いましたが、理由はあったようです。
「だからね」
そう青年は一度言葉を切り低い声で、
「そんな軽装でこの場所にいること自体おかしいことなんだよ。君は誰だい?」
「だ……」
誰でしょう。
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