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困りました困りました。
これは大変困りました。
ここの返事で私の立ち位置が決まるといっても過言ではないでしょう。
どうも青年は私のことを迷子という認識ではなく、怪しい人物だと睨んでいるようです。
「すみません。ちょっと記憶があやふやでして」
苦肉の策で記憶喪失設定にしておきましょう。
下手に弁明するのは命取りです。
実際私の記憶はありますが、この子の実態はわからないのですから。
「…………」
青年は何か言いたげな表情でしたが、
「僕はクゥコ。君は? 思い出せないのなら勝手に名付けるけど」
「えっ……っと」
結構強引な人ですね。もしくは頭の切り替えが早いのか。
「さん、に、」
「え、えっと待ってください。ええっと」
半面、この世界に馴染むように彼から名付けられるのもいいかと思いましたが、どうせ呼ばれるのなら自分の気に入った響きのほうがよいでしょう。
「リンです」
本当は倫子なんですけどね。
いいじゃないですか。ちょっとぐらい可愛い名前に憧れても。
これぐらいだったら違和感がないと思うのですが。
「ふぅうん。リンね」
クゥコさんは自分に相当に自信があるのでしょう。
まったく視線を逸らさず私を射すくめてきます。
ここで眼が泳ぐとやましいこと確定な気がしたので、私も負けじと見つめ返します。
長いと思いましたが実際はきっと一瞬なのでしょう。
すっと、彼の厳しい視線が消えると、
「まぁ気になることは多々あるけど、とりあえずついてきて。ここで野放しにしておくわけにもいかないし」
「あ、はい」
大きな荷物を抱えた彼の背中を追いかけました。
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