ヘィセ・アロィ

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「あ、……そうなんですか」  思わず驚いてしまいましたが、冷静になればそうですよね。  さんとさん。  随分と語感がいいといいますか、どう見ても身内寄りの響きですし。  偶然にしては変ですし。    にしても、うっかり私の元の名を名乗り損ねてしまいました。  これは私も本名を名乗った方がいいのでしょうか。  あぁでも私。元の名前に未練はないのです。  小酒井(こさかい)倫子(のりこ)。  この響きはもうきっと、語ることも聞くこともないと思いますし、訊ねられない限りは言う必要もないですかね。 「ハィセさん、の響きは――もしや長谷(はせ)さんからなんですかね」  私の独り言のようなつぶやきで納得していると、なにやらふわりと花の甘い匂いがしてきます。  ミクャさんが人数分のお茶を持ってきていました。  ソファの前のテーブルにソーサー付きのティーカップが並べられ、ごくりと喉が鳴ります。  内心、ちょうど喉が渇いていたもので。 「天然素材のハーブティーですので、リン様にも身体の負担は少ないかと思われます」 「――!」  ああ、なるほど。  未知の生物に対して、人間と同じ食べ物を与えた時の症状の不安はありますものね。  だからといって、私だけ水という訳にもいきませんし。  もっとも私、先ほど糖分たっぷりのキャラメルとか頂いちゃいましたが。  そんなミクャさんの気遣いにありがたく思い、さすが執事さんと感心してしまいます。 「ありがとうございます」  竜の口元で人間用のカップの(ふち)を挟むわけにもいかず、行儀悪くテーブルの上に乗り、舌先でチロリと舐めます。  ――うん。何となくラベンダーの香りに蜂蜜の味を感じます。  眼の下のクマが目立つヘィセさんを気遣って、安眠効果のあるハーブティーなのかもしれません。 「リューが操っている人体人形は、もともとは我輩が将来使うために作成したものでして」 「えっと、将来……?」  遠隔操作と言いますか、確かにフクロウを操っていましたし人形を操ることも可能でしょうし。  すばやく疑問を投げかけると浅慮に思われそうなので、僅かな間で考えを巡らせます。    ですが考えがうまくまとまりません。  沈黙していると気を利かせて、長谷(ハィセ)さんが捕捉します。 「多分、リンさんならわかると思うけど、生きている限り永遠の命とか望む時ってあるじゃない? こっちの世界では魂は一つで輪廻転生がない考えなんだよね」 「はぁ」 「魔女とかが若い娘の身体を乗っ取って、何百年も長生きするって話とかあるじゃない? 研究者ってのは、実験が実を結ぶのに何年も年月をかけるでしょ? ヘィちゃんは長生きしたくて、それを自分が作った人形でやりたいって思ってるわけ。まぁめっちゃ禁忌(タブー)なんだけどね」 「は、はぁ」  いきなりの急展開です。
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