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生まれた理由
「あの……私、あの後――」
クゥコさんからは大体の内容は聞いていたとしても、もう少し詳しく知りたいと思うのが人の常。
私の知らないところでの出来事を、いまさら聞くのは申し訳ないと思いながらも、おそるおそる訊ねると、カチャリと陶器の音がします。
「ったく、寝るならちゃんと寝ろ」
そう振り向くとヤォさんが、電池切れのように意識のないヘィセさんを支え、カップをテーブルに置いています。
まるで安心したかのように、ヘィセさんが寝息を立てていました。
それはまるで眠り姫のように美しい顔立ちなのです。
「ふぅ、ようやくヘィちゃんの怒涛のような思考回路が止まってくれた」
平然としていますが、長谷さんはどうやら思考を共有している人形の身体なので、ヘィセさんの意識が流れ込んでいたようです。
「運びましょうか?」
傍で控えていた執事のミクャさんが主であるヘィセさんを起こすのも憚れるようなので、そのまま抱きかかえようと手を伸ばすと、
「ん、いいさ。軽いし。ってかちゃんと食ってるのか?」
「毎度食事をするよう促してはいるのですが、坊ちゃまは何かと夢中になってしまうと周りが見えなくなってしまうのが困りものです。最近は、ハィセさまが考案した流動飲料で済ませてしまうこともありまして。――ヤォ殿、ありがとうございます」
やれやれとミクャさんは渋い顔をし、眉間にしわを寄せています。
一方、ひょいとヘィセさんを軽々とお姫様抱っこし、背もたれは低いにしてもソファを跨いで行く、ヤォさんの足の長さと膂力に驚くばかりです。
寝かせるために三人が別室に移動してしまうと、長谷さん、クゥコさん、私が残ってしまいました。
「詳しく話してみたら?」
一拍置いて、クゥコさんが長谷さんに促します。
「あー、うん。リンさん、聞く?」
「はい。是非とも」
ぐったりしていた長谷さんが気を取り直して居住まいを正すので、私もごくりと喉を鳴らしました。
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