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「ヤォさんが蘇生した時の話」
「あぁ。あの時はみんなに迷惑かけちまって悪かったなぁ」
参った参ったとばかりに渋い顔になり、うんうんと腕を組んで頷きます。
「ヘィの薬、効きは良かったんだが効果時間が短けぇよ」
「ヘィちゃん驚いてたよ。あんな苦い薬を顔色ひとつ変えず、飲み干せる人みたことないって」
「……まぁ、慣れてますんで」
震えるように言葉が詰まったのを、私は心の中で笑ってしまいました。
あぁ出会って初めの頃の、クゥコさんがヤォさんを気遣って作った薬入りの苦いスープ。
クゥコさんに悪いと思って、ずっと黙って飲み続けていたのでしょう。それが妙なところで功を奏したといいますか。
当の本人であるクゥコさんは、なぜか素知らぬ顔と言いますか理解不能な面持ちなのが釈然としませんが。
「俺の不甲斐なさで、嬢ちゃんを怖い眼に合わせてしまって悪かったな」
子供に語り掛けるようにやさしい口調で、ヤォさんが自然と私の頭を撫でます。――ああ、いけません! 思わずきゅんと心がときめいてしまいます。
「いえ。ヤォさんが無事で何よりです」
原点に戻れば、竜の呪いで病に侵されていたヤォさんを救うのが目的だったのですから。
私の存在などイレギュラーなものでしょう。
――でももし、私がクゥコさんと出会わなかった展開があったらとしたら、きっとヤォさんはどうなっていたのでしょうか。
最悪な結末を想像してしまって、すぐさま頭の中の妄想をかき消します。
「にしても、呪いで死ぬか溺死するかでまいったよなー」
「なに暢気に言ってるんですか。あの時は本当に息が止まるかと思いましたよ」
努めて明るく振舞うヤォさんに比べて、クゥコさんは苦い顔つきで論します。
「溺死……?」
満天の夜に雲などなく、湿気も風もなかったあの日のこと。
想像したとき、ふわりと風が撫でた気がしました。
「そ。君が大声で叫んで天空に飛び立っていったあと、まるで君の泣き姿かのように、雨が降ってきたんだよ。この地域じゃめったに雨なんて降らないからね」
雨宿りしようにも何もない荒野です。
倒れたヤォさんを濡れないようにクゥコさんが覆いかぶさるも、それでも雨は強さを増し、滴る雫がヤォさんの頬を濡らしたようで。
それからも一向に止まない雨。
次第にクゥコさんの冷えていく身体の中、はたと気が付くと生気を失ったヤォさんの呼吸は止まっていたそうです。
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