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いない
奉遷。
神社におかれる神体には神が宿るとされる。奉遷とは神の入った器を別の場所へ移動することを示す。その際には様々な儀式が行われる。
例えば、神輿のような車に神体を乗せて移したり、松明などの明かりのなかを神体とそのあとに続く数百人に及ぶ行列が移動したりする、等である。儀式の内容は神社によって異なる。
つまり、この奉遷をする際の儀式は軽々しく神を移動させてはならないということを示しているのである。
旧暦十月、古い暦では神無月と呼ばれるこの時期には全国の神々が出雲の国に集まると言われる。これは神体自体が移動しているわけではないので奉遷しているとは言わない。神は出雲の国へと出掛けていき、また戻ってくるのである。
その時、戻るべき器がなかった神はどうなるのだろうか。
神は新たな器を探そうとするのか。それとも、穢れを直にその身へ浴びることとなるのか。
その神は、神としての役目を果たすことができるのだろうか。あるいは、新たな役目を担うことになるのだろうか。
この地に、もはや神と呼ばれる神は存在しない。
「それ」は繰り返し、何かを何処かへ置いてきてしまった。だから、「それ」はもう在るべき「それ」ではないのである。
「それ」がやって来たこの地に神はいないのだ。
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