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何度も引っ越しをした。
町から村へ。村から街へ。街から街へ。街から町へ。
住む場所がかわるのは気が楽だ。心の中が軽くなる。
引っ越しをする度に何かを置いてきてしまったようだ。誰だってあるだろう。今まで座っていた場所に忘れ物をしてきてしまったことなんて。でも覚えていない。きっと大切なものではなかったんだ。そうやってなくしたものを忘れていく。
何度も引っ越しをした。何度も引っ越しを繰り返した。
ここは自分の居るべき場所ではないと、場所を引き払い、外へ出た。そして、また別の場所に居着いた。
本当はそうするべきではない。自分でもわかっていた。でも自分を動かすのは人だから、留まることなんてできなかった。引っ越すことは自分の意思ではない。それでも人は自分を持っていく。
何故、なんて思わなかった。人が望むのなら自分はそれに応えなければならない。そこに自分の意思はなかった。だから次の引っ越しも今までと同じだ。
最初になにかを置いてきたのだと知ったのは遠く離れてからだった。今まであった何かがない。今まで側にいた人がいない。
誰もいなくなってしまった。だけど引っ越し先では新しい人たちが自分を迎えてくれた。空いた場所には別のものが埋められる。
誰だってあるだろう。一人きりになってしまった引っ越し先で代わりになるものを、人を求める。それらはきっと簡単に手に入る。そしてきっと簡単に手放せる。よくあるものなのさ。
何度も引っ越しを繰り返した。何度も失って、何度も空になって、何度も代わりを得て、また失った。結局最初にあったものが自分には必要だったのだ。自分が自分である為には最初のものが必要不可欠だった。
だが帰る場所がわからない。
もう戻ることができない。
もう元の自分へ帰ることができない。
場所を移動すること自体は悪くないのだ。ただ、正しい儀式を経てさえすれば、自分は自分のままでいられたはずなのだ。
神と呼ばれた自分のままで。
神である自分を神として扱ってくれればよかったのに。
そやつらは自分を神ではなく、物として扱った。神が宿る器の意味を知らぬ人の子は盗っ人だった。ただそれだけだったのだ。
自分のしてきたことは引っ越しなどではない。ただの窃盗だ。
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