いる?

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いる?

ご神体が盗まれるなんてこと、ないと思ってるでしょ。でもあるんだよ。 鏡や剣、玉や色々。神が宿ってなくてもそれらはきっと価値ある物だ。高価で取引される、人がだーいすきなお金になるタカラモノだよ。 ご神体だけじゃない。神社の中にあるものは「おまけ」としても大事なもの。だから売れるんだ。特になんにも知らない愚か者たちにとっては涎が出るくらい欲しいもの。 知っていればね、欲しがるなんてしないんだよ。信仰する人は絶対そんなことしない。盗っ人はバチアタリだよ。罰を受けなければならない罪人、罰当たりだ。 だからね、ボク、引っ越ししてくれた人にお礼をしたんだ。 何度も引っ越しをしたよ。 何度も何度も。 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。 その度にね。ボクの何かがなくなっていくんだ。大事な何かが欠けて、なくなっていくんだ。 誰も返してくれないよ。だって、それが盗まれたものなんて知らないんだからさぁ。 録な儀式なんて知らないクセにさぁ、神様を奉遷させるなんてできっこないんだよぉ。だからねぇ、ボク、もう神様じゃなくなっちゃったんだ。 もうねぇ。ボクの中の大事な神様の部分がねぇ、どんどん置いてかれちゃってねぇ、ボクの何がなくなっちゃったのかわかんないんだぁ。 なくなってねぇ、その事も忘れちゃうから、みーんな覚えてないの。知らないの。 ボクのこと、みーんな知らないの。 名前もね。由来もね。性質もね。みーんな忘れちゃった。 ボク、変わっちゃった。 もう、神様じゃないよ。 もう、神様に戻れないよ。 帰れない。かえれない。かえりたいのに、最初の場所が、思い出せないんだよ。 引っ越しって、そういうものだよね。 何かを置いてきちゃった。心のどこかが空いてる。埋めても埋めても。いつの間にか何がないのか思い出せない。 いつの間にか、なくした何かを本人さえ忘れちゃう。始めからそこには何もなかったって思っちゃう。 置き去りにされた何かは消えていく。 あるべき場所のボクが忘れちゃったから。置かれる場所を知ってた人も忘れちゃったから。もう、誰も覚えていないから。 「ボク」っていう「神様」はここにいるよ。でもね、「自分」っていう「神」は何処にもいないんだ。奉遷っていう引っ越しルールを破ったんだからさ、当然でしょ。もうその自分の為の儀式は誰も覚えていない。神は同じ神として甦らない。 誠に愚かなり、人の子よ。 だからね、ボク、足りないものを他の人からもらうことにしたんだ。いいでしょ、勝手に引っ越しなんてさせた人が悪いんだから。 愚かなり、人の子よ。我が糧となることに感謝せよ。 引っ越し先では誰かがいなくなるよ。神隠しじゃないよ。隠してないんだから。 悪い人も、善い人も関係ない。誰かがいくらかいなくなる。 全ては神のみぞ知る。そう思えばいい。 既に彼らはボクの口から呑み込んじゃった後。きれいにキレイに、なんにものこさず食べてあげる。 また誰かがボクを引っ越しさせようとしてるみたいだね。 手をキレイに洗っておかなきゃ。 知らない人は信じられない。引っ越し先でよくある話、でしょ。
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