7.百瀬の告白

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 ベッドの隣、ローテーブルを端に寄せて作ったスペースからは規則正しい寝息が聞こえる。俺の話を聞いて安心したのか、百瀬は大きな体を器用に丸めて寝ていた。コーヒーを一気飲みしたとは思えないほどぐっすりと。こっちは寝つけそうにないというのに。 「……紛らわしいんだよ」  眠る後輩に文句を言っても、夢の中から出てくる気配はない。  ――どうして、津島さんが好きなんだろう。  一度読んだ心は正確ではなかった。『あかねちゃんは』という主語が抜けていた。  口にされた言葉しか聞き取れないのと同じで、言葉にされた感情しか読めないということだろうか。俺が今まで見てきた心は一部でしかなく、本当はもっと多くのことが隠れていたのだろうか。  ざわつく胸を押さえ、壁側へと体を向ける。  見えるのだからいいと思った。心が見えるのだから聞く必要なんてないと。でも今は、本当にそれでよかったのかと疑問が膨らむ。  ――朝陽ならわかってくれる。  あの日の言葉にも見えていなかった意味があったとしたら。木崎が一度も「朝陽は?」と聞かなかったことにも理由があったとしたら。俺は……。
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