208人が本棚に入れています
本棚に追加
ベッドの隣、ローテーブルを端に寄せて作ったスペースからは規則正しい寝息が聞こえる。俺の話を聞いて安心したのか、百瀬は大きな体を器用に丸めて寝ていた。コーヒーを一気飲みしたとは思えないほどぐっすりと。こっちは寝つけそうにないというのに。
「……紛らわしいんだよ」
眠る後輩に文句を言っても、夢の中から出てくる気配はない。
――どうして、津島さんが好きなんだろう。
一度読んだ心は正確ではなかった。『あかねちゃんは』という主語が抜けていた。
口にされた言葉しか聞き取れないのと同じで、言葉にされた感情しか読めないということだろうか。俺が今まで見てきた心は一部でしかなく、本当はもっと多くのことが隠れていたのだろうか。
ざわつく胸を押さえ、壁側へと体を向ける。
見えるのだからいいと思った。心が見えるのだから聞く必要なんてないと。でも今は、本当にそれでよかったのかと疑問が膨らむ。
――朝陽ならわかってくれる。
あの日の言葉にも見えていなかった意味があったとしたら。木崎が一度も「朝陽は?」と聞かなかったことにも理由があったとしたら。俺は……。
最初のコメントを投稿しよう!