8.誰かではない

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8.誰かではない

 アラームではなく、着信音で目が覚めた。枕元へと手を伸ばすが、明るくなった画面に着信を示すものは何もない。 「百瀬、ケータイ、鳴ってる」  ベッドの上から声をかければ、丸まっていた背中が一瞬で伸びる。「すみません!」と床に転がっていたスマートフォンを手に取り、その場で正座する。あまりにも素早い動きに驚いていると、 「お世話になっております」  百瀬が仕事の表情になった。取引先だろうか。土曜日なのに? 訝しんでいると、今度は百瀬のカバンから振動音が響く。  百瀬が口パクで「社用です」と伝えてくる。外ポケットに入っていたそれを取り出せば、画面には木崎の名前が出ていた。 「……おはようございます。津島です。すみません、百瀬はべつの電話に出ていて」 「――今から会社に来るよう伝えて」 「何かトラブルですか」 「来ればわかる」  そう言うと木崎は一方的に通話を終了させた。こちらの都合など確かめもせず。 「来ればわかるって……」  自分も行くべきだろうか。内容がわからないので判断できない。 「津島さん」  通話を終えた百瀬が、声に緊張を滲ませる。 「ファンゲームの中村さんからだったんですけど」
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