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目が合った相手の心が見える。漫画のような白い吹き出しに文字が並ぶ。
「こんなふうに相手の気持ちが見えたらいいのに」漫画雑誌を指差す友人に「ほんとにな」と曖昧に笑ったのは小学生のとき。ほかのひとには見えないらしい、となんとなく気づいていたが、自分だけが見えると確信したのはこのときだ。
この能力のおかげで、自分でも要領よく生きてきたと思う。両親、先生、友人、恋人。目が合えば心が見えるのだ。人間関係に悩んだことなどほとんどない。相手の望む声に合わせ、自分を作ればいい。自慢の息子、よくできた生徒、頼りになる友人、優しい恋人。
就職してからも変わることはなく、先輩や上司、同僚の意見を注意深く探って立ち回ってきた。
――朝陽は?
自分のことを聞いてくれる声は、もう聞こえない。
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