残り香

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 昼間は女友達四人でランチとお茶をし、十八時からの合コンに臨む。  相手は隣の大学の男子学生で、場を一生懸命盛り上げようとする明るさと、必死に笑いを取ろうとする言動に少し引いてしまった。  賢吾くんは人に好かれようと努力せず、素のままであの魅力がある。  二つ上だからというのもあるかもしれないけれど、どうしても大人びた彼と比べてしまい、合コン相手の彼らと自分がどうこうなるなど考えられなかった。  友達三人も似た手応えだったらしく、どうしてもという男子学生と連絡交換だけして、一次会のみで解散した。 「マックでも寄っていこうか」  サヤカに言われ、全員で「そうだね~」と同意する。  マクドナルドに向けて歩いていた時、ハルが「あれ?」と声を上げた。 「ごめん。あれって高沢くんじゃない?」  声を潜めて彼女が指さした先には、パーマ頭の背が高い男性がいる。 「あ……」  一瞬笑顔になりかけたのもつかの間、彼の隣に女性がいるのに気づいて私の心の中で不和の芽がブワッと生長していく。  いつも通りシンプルな服装の賢吾くんの側にいるのは、ワンレンのロングヘアを緩く巻いた大人っぽい女性だ。  サマーニットのキャミワンピはスタイルのいい体にフィットし、さり気なく大きな胸やくびれた腰を強調している。  薄く色がついたサングラスを掛けていても、彼女が美人なのが分かる。肉厚な唇にはブラウン系のリップが塗られている。リップの色に貴賤はないはずなのに、自分がつけている無難なローズピンクがとても子供っぽく思えた。  女性は賢吾くんの腕に腕を絡め、彼は彼女の買い物とおぼしき紙袋を持っている。完全に恋人同士だ。 「理奈……」  カナが気遣わしげに声を掛けてきたけれど、私はフラリと歩み出ていた。 「理奈?」  ハルの声を後ろに、私はズンズンと歩いていく。  あまりの衝撃に、一緒にいた友達の事も、彼女こそ本当の恋人で私はただのセフレとか、色んなものが頭から飛んでいた。  脳内はジンと痺れ、思考はとても冴えている――ように思えて、混乱しきっていた。  ――誰?  ――誰よその女!  早足だった足取りは次第に速度を増し、私は走って二人を追う。 「賢吾くん!」  大きな声を上げ、私は彼の腕を引っ張った。 「その女誰!? どうして腕組んでるの!?」  周囲の人が私を見るのが分かった。修羅場だと興味深そうな顔をする人もいたけれど、構っていられない。  女からは高級そうな香水の匂いがし、それがとてもムカついた。 「誰なの!? ねぇ!」  両手で賢吾くんの腕を掴み、力任せに揺さぶる。  彼は能面のような表情で私を見ていて、その目の輝きのなさに、心の奥が酷く冷えていく。  いっぽうで、女性は楽しそうに私たちを見ていた。  その余裕っぷりが憎たらしくて、私は涙を浮かべた目で彼女を睨む。 「何がおかしいんですか?」 「いやぁ、若くて可愛いなぁーって思って」 「はぁ!? 馬鹿にしてるんですか!?」  そりゃあ、あなたのほうがどう見ても年上でしょうけど、若いから何? このババア!  あまりの怒りに体が震え、お腹の奥でマグマがグツグツと煮えたぎっているようだ。  彼女はそんな私を見て笑い、いきなり私の肩を抱いてきた。 「ちょ……っ」 「いいから、ちょっときて」  そのまま、私は彼女に道路の脇まで連れていかれた。 「賢吾にあなたを抱いていいって許可したのは、私なの」 「……は……?」  なに、訳の分からない事を言ってるの?  雑踏のただ中にいるのに、周囲の音が酷く遠く聞こえる。 「長く付き合っていても、ほら、マンネリとかあるでしょ? あの子だってせっかく大学に受かったんだし、キャンパスライフを謳歌させてあげたいし。同級生に好意を向けられてるって言っていたから、『じゃあ、応えてあげたら?』って許可したの」  彼女の言葉を聞き、目の奥が熱くなり次々に涙が出てくる。
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