遮断機の向こう側には君がいる。

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 あなたは踏切が好きだろうか。踏切は嫌いだ。なかなか開かないから。きっと少し前の僕ならそう答えているだろう。  十五歳の春。僕は高校一年生になった。入学式を終え、今日から授業が始まる。まだ慣れない通学路。僕はさほど速度の出ない自転車をこいで学校へ向かっていた。その日は空気が乾いていて、軽く風が吹いていた。家から高校までの半分くらいの場所に踏切がある。僕はこの踏切をまだ一回も、引っかからずに通れたことはない。  カンカンカン。そう踏切が鳴いている。各駅停車の電車が通り過ぎる間に反対から快速の電車が通り過ぎていく。  すべての電車が通り過ぎたとき、遮断機を挟んだ反対側に一人の少女が自転車を連れて踏切が開くのを待っていた。  綺麗な人だった。  僕よりも少し背が高い。制服からして僕の反対側の高校だろうか。黒く長い髪をたなびかせて車道を挟んだ僕の右側を通り過ぎていく。  一瞬で彼女の世界に引き込まれたような気さえした。僕は少し腕に力を入れて自転車を押し始めた。  僕はその日、初めて恋に落ちた。一目惚れだった。名前も知らない少女に僕の心は奪われた。  きっとその日からだ。僕が踏切を好きになったのは。
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