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遡ること一ヶ月前、「聖女は王族と婚姻する習わし」という話をクレアは初めて知らされた。
国中の瘴気を払うため、各地に赴いて浄化魔法で土地を癒やした後の話だ。濃くなる瘴気と魔物増加による国の憂いもなくなり、平和が戻った王国はクレアを王宮に閉じ込めた。
聖女らしい振る舞いを身に付けるために始まった淑女教育の一環で、第一王子と会う回数がやけに多いなとは思っていたが、そういう思惑があったからだとわかれば納得だった。
ただ、問題があるとすれば、クレアの夫となる王子にはすでに婚約者がいたこと。そして、自分は相思相愛の二人の間に割って入る、物語ではよくある悪役の配置だった。
これで「王国に光を照らす聖女」とは聞いて呆れる。愛する二人を引き裂く役なんて、どこの悪女だろうか。
けれど、クレアに拒否権などあるはずがない。聖女として生きていくと決めたときから運命は決まっていたのだ。王族に嫁ぐことが聖女の務めというならば、望まぬ結婚でも粛々と従うよりほかない。すべては家族を守るため。
先代聖女が現れたのは何百年も前の話。国民の誰もが忘れかけていた、国の古いしきたりのせいで婚姻も自由にできない。
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