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第一王子との婚約は回避できたが、今度こそ逃げられない。もう誰もこの婚姻を止める者などいない。
奇跡は、二度も起こらない。
(どうしてかしら。今になって、とっくに決めたはずの覚悟が揺るぎそうで、こわい……)
第二王子との顔合わせのことを考えると、心が沈んでいく。相手は王族。それなりの振る舞いが求められる。そして、今度は初めから婚約者として接しなければならない。
考えるだけで憂鬱になり、自然と視線は大理石の床に移る。丁寧に磨き上げられた神殿の床は塵一つなく清められ、どこも手入れが行き届いている。神殿には下働きの者がたくさんいる。そして、彼らの上に立つのが聖女だ。
たった一人の聖女に、皆がかしずく。
けれども、クレアはもともと貧乏男爵令嬢だ。しかも、中身はほとんど庶民である。国民から敬われるような価値が本当に自分にあるのだろうか。
治癒術は使えても、クレア自身が特に変わったわけではない。でも周囲は違う。クレアの行動に意味を見いだし、さすが聖女だと褒め称える。貴族たちは手のひらを返したように媚びへつらい、その態度の一変にいっそ感心したものだ。
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