セイレナの願い謡

5/14

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 数日の間、エレナは家でふせっていましたが、少しずつ元の生活に戻り、再び願い(うた)を歌うようになりました。ヒューゴの魂の安息と、二度とヒューゴのように命を落とす人が出ないように海の神への祈りを歌に込めました。  兄を思い、涙を流しながらかすれた声で歌うエレナの声を耳にした人々は、自然と目を閉じ、願い(うた)に聞き入りました。  平穏な日々を送っていたある日、予期せぬ悲劇が起こりました。若い漁師たちが次々と海で命を落としたのです。ヒューゴを思い出させるこの悲劇が立て続けに三度も起こったため、漁村は暗く沈んだ空気に覆われてしまいました。  亡くなった漁師の家族は悲しみにくれました。行き場のない深い悲しみに打ちひしがれた家族は、エレナが兄を失ったことで『セイレーン』になったという妄想を抱くようになりました。  セイレーンとは、美しい歌声で人を惑わし、船を沈めると伝わる海の怪物です。  妄想に取り()かれた家族は、エレナがいつも歌っているのは、海に出ている漁師たちをヒューゴと同じ目に遭わせるためだという思い込みを村人たちに言いふらすようになりました。  しかし村人たちはそんな話を耳にしても一蹴し、相手にしませんでした。自分たちを信じてもらえない家族は、妄想が止まらなくなり、ついにエレナの家に火をつけてしまいます。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加