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さまざまな国からの観光客でにぎわう港町アステル。温かな陽光が降りそそぎ、帆船やプレジャーヨットが停泊する埠頭では、カモメが気持ちよさそうに飛んでいる。カモメのコーラスとともに土産店からオルゴールの音が聞こえてきた。
「あ! おばあちゃま、これケイトが好きな曲! アステルに昔から伝わるお歌で、『セイレナの願い謡』っていうの。星の光~海を照らす~♪ 神よ~海を守りたまえ~♪」
祖母のエイダと座っていたケイトがピョンとベンチから飛び降り、海に向かって歌い始めた。
パチパチとエイダが微笑みながら拍手をする。
「とっても上手。幼稚園で習ったの?」
「うん!」
「そう。でもね、ケイトちゃんが歌った歌詞は新しく作られたものなのよ。知ってた?」
「ううん。昔は歌詞が違ったの?」
「ええ、今は使われていない古い言葉の歌詞だったみたい。今ではその言葉をわかる人がいないから、今の言葉に作り替えたそうよ。そうだケイトちゃん、その歌を歌っていた優しいセイレーンの昔話は聞いたことがある?」
「え~昔話? 聞きたい聞きたぁい!」
「はいはい」
目を輝かせて興奮気味にベンチに座ったケイトを落ち着かせて、エイダは静かに話し始める。
「これは昔々、アステルが小さな漁村だったころのお話です――」
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