雷鳴と消ゆ

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石畳の道に慌ただしい足音が響いた。子どもたちは我先にと道を急ぐ。荷車を危うく避け、露天を飛び越し、怒鳴り声を背中に受ける。  目指しているは中心街の『記念広場』だ。息を切らせながら、先頭の少年が叫んだ。 「急げ、始まるぞ!」  その声でペースを上げた彼らは、程なくして広場へと辿り着いた。  中央には、既に人だかりができている。集まっているのは、同じような年恰好の子どもたちだ。 彼らの中心では白いワイシャツを着て、黒いスラックスをサスペンダーで吊り上げた女が前屈みになっていた。  彼女は傍らの大きなトランクから小さな袋を取り出す。中に入っていた個包装の菓子を、子どもたちが差し出した銅貨と交換していく。ついさっき来たばかりの少年たちも、おとなしくその列の後ろに並んだ。  やがて、菓子が全ての子どもに行き渡る。子どもたちは、待ちきれないかのように歓声を上げ始めた。 「センセイ……センセイ、センセイ!」  『センセイ』と呼ばれた女は芝居がかった仕草でその声を制すると、再びトランクを開けた。  中からは色とりどりの服を着た無数の人形が、1人でに飛び出して来た。人形たちは宙をぐるぐる回り、上へと浮き上がる。彼女の使う『魔法』によるものだ。 「今日は来てくれてありがとう! みんなはカトスピア神話を知ってるかなー?」 「知ってまーす!」  にこやかなセンセイの言葉に、子どもたちは声を揃えた。 「そっか。お勉強頑張ってるんだね、偉いねー。じゃあ、ちょっとおさらいしてみようか。わたしたちが暮らすこの国 カトスピア王国の成り立ちと、今日までの歴史について……」
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