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今から3年ほど、まだエメと出会う前にグレイは執事長ではなく中堅の一執事だった。
仕事には従事で執事長に仕事ぶりを評価され充実した日々を送っていた。
よく気が利く様子は使用人男女共々知っていた。
グレイ・ジェイムズは元々先祖代々、王室を管理する仕事をする家計に生まれだ。
そういった家柄の生業で働いている執事やメイド、衛兵は自分以外にもいるのでことさら珍しくはなかった。
しかし、城の外から雇われた者もいる。
私には外から奉公しに来た気立てが良いメイドと評判を雇われた衛兵の仕事仲間がいた。
寡黙なグレイ、姉御肌なメイドのセリーナ、ムードメーカーだが強さは衛兵の中でも際立ったダリルは
性格は違えど不思議とウマがあったのだった。
セリーナとグレイの出会いはグレイが執事長に呼ばれた為、後をつける為に中庭を通った際、どこから入り込んだのか1匹の猫がジャケットに張り付いて離れないところたまたま通りかかったセリーナが剥がしたのがキッカケで知り合った。
城の中で見ない顔にグレイは違和感を覚えた。
持ち場が違うのもあるが、城に長くから仕えてる自分が知らない事があるのは気持ち悪い。
そんな彼女の噂はメイドの中では有名だったらしい。
街から奉公に来た新人のセリーナはよくメイド長に気にかけられてると密かにメイドの中では噂になっていた。
グレイはその事を同僚から又聞きし、セリーナの有能ぶりに嫉妬したが彼女はメイド達の間で噂になってるという事をただの賞賛だけではない嫉妬だとみた。
自分の周りにそんな奴はいないが、少なからず元から王室に仕えている者は余所者が得た評価を面白く思わない奴らは一定数いる。
しかし、静かに猫を引き剥がし
「私がこの子を見ておきますから」
とグレイにそっと伝えた彼女に礼の一つも言えなかった。
悪い娘ではないようだ。
まあ、勝手に仕事に励むといい。
とグレイは思った。
しかし、それからも猫とグレイの格闘は続き、事あるごとにセリーナはその間に割って入り、グレイから猫を引き剥がす。
「君には本当によく世話になるな」
と彼女に言うとセリーナは
「猫に好かれるなんて羨ましいです。
きっとあの子達はグレイ様の側に行くと快適に過ごせると思ってるんですよ」
と笑った。
褒め言葉なのか分からないが生意気な言葉をかけられたが悪い気はしない。
親密さを彼女に覚え
「メイド長もグレイと呼ぶから様はよしてくれ」
と言うと「いいの・・?いや、いいんですか?」と彼女はつい砕けた口調を訂正した。
街から来た為、つい口調が戻ったのだろう。
「あと、敬語も無しだ。君は街から来たんだろう。
メイドが噂していたから知っている。
君はまだ入って日が浅いから息抜きも必要だろうから話し相手になってあげてもいい」
と言う申し出に彼女はポカンと驚いた。
「グレイ様は有能と聞いていたので恐れ多いです」
まだ、遠慮が解けない彼女に
「私は君の先輩にあたるんだが」と言うと彼女はまた萎縮した。
「まあいい、君が呼びたいように呼んでくれ」
そう言うと彼女は「分かりました。すぐに呼び捨ては無理ですがなるべく頑張ります」
それから、また猫からのアタックを彼女に助けてもらい、時折りセリーナと互いの話をするようになり、彼女からの呼び方がやっと「様」や「ですます」が抜けた口調でグレイに話す様になり穏やかな時間が流れた。
そうしてセリーナが来た夏から数ヶ月が過ぎ新年が明けた。
忙しく働いた後は2人して休憩がてら王族は通らない通路でセリーナが持って来たクッキーを食べながら2人だけで雑談ならぬ打ち上げもした。
この頃には既にセリーナには他のメイドの友人が出来ていたがグレイに絡む猫を剥がすのは相変わらず彼女だった。
「君が城にいる時期は後1年か・・・」
夏の昼下がり、セリーナと休憩中に話す。
「後1年は仕事するわ。城から出たら次は結婚しろって言われるから帰りたいか複雑よ」
「セリーナは結婚はしたくないのか」
「そうゆう訳じゃないけど親が決めた相手なんて好みかどうか分からないじゃない」
まあ、父も母もみんなそうして来たしと言う彼女をグレイはどこか救いたい気持ちになっていた。
そう。彼女に惹かれていたのだ。
相変わらずグレイには猫がまとわりつきその数は増え、セリーナもそんな数の猫を相手出来ずにいた。2人は休憩場所を屋内に変えようとしていたが
「なんだあ、この猫軍団は?俺も混ぜてくれよ」とまた見慣れない休憩中の衛兵が人懐っこい笑顔で近づいて来ると猫達は一斉に離れていった。
衛兵はそれに残念がっていたがグレイもセリーナもその姿がおかしかったのかクスクス笑いあった。
そうして彼、ダリルとも仲良くなった。
体格が良くよそから雇われた彼はムードメーカーだが衛兵としても有能でここだけの話、グレイは彼の恵まれた筋肉が羨ましく感じた。
休憩仲間は自然と3人になり、ダリルは猫に好かれる方法をセリーナに教わっていた。
グレイはこんな日が続くといいなと思う反面、セリーナが城から出ていく事が怖くなり、ダリルに相談しながらも彼女にやっと告白ができた。
セリーナは驚いたがグレイの告白を受けた。
休憩中はダリルも2人の邪魔はしなかったので中々3人でつるむ事は少なくなったが、恋人と友人として2人は大切な存在になって、やがてセリーナが街に帰る頃にプロポーズしようと人気店の宝石屋ウィリアムを訪れた。
(婚約指輪の人気商品も、彼女の好みもサイズも分かってる)
すぐに自分なら指輪の1つ選べると思ったのに店に入るとその自信は無くなった。
そんな時
「何かお困りであればお声がけください」
店の売り子が声をかけた。
「いや、買うのか迷っていて・・・。申し訳ない」
と頭を下げた。
「いえ、見ていくだけの方でも嬉しいです。何か見たい物があればケースからお出ししますので」
売り子はそう言うと後を向き雑務をする。
いざカウンター越しに向き合うと、客が気を遣って
商品が選べなくなると思い売り子はケースから離れた。
彼女なりの配慮だ。
しかしグレイには疑問がたくさんあった。
「この看板商品なんだが」と婚約指輪を指差し売り子に尋ねる。
「女性はやはりこういったタイプの指輪を渡されるとプロポーズを受けたくなるのだろうか」
と鴨同然な質問だが売り子は
「そうですね。指輪も大切ですが、何より殿方の気持ちに心打たれると思います。ちなみにこの他にもおすすめはあるのですがお相手様の指は何号か分かりますか?」
「ああ、把握している」
「まあ、仲が本当によろしいんですね」
なかなか把握してる方は少なくてと売り子は看板商品以外のおすすめを見繕いグレイに見せた。
小粒のダイヤと王道な形の看板商品とはまた違ったデザインの中にセリーナが好きそうと思われるスミレの花を象ったダイヤが隅に一粒載っているリングだ。
自然と「これを買う事にする」とグレイが口にすると売り子は「かしこまりました。イニシャルなどはリングに入れますか?1週間ほどお時間はかかりますが」と言われたのでお願いした。
指輪が決まって後はプロポーズするだけだ。
売り子が控えを渡し、また1週間後に店に来る事になった。
しかし、グレイが店に指輪を取りに来る事はなかった。
セリーナの奉公が予定よりも早く終わり、しばらくしてダリルも城を辞めて城を出ていった。
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