第十章 未練

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第十章 未練

 昨日の事を住職に話してみた。 「それは成仏する事にしたという事ですか?」 『ええ。可哀想だけど』 「可哀想? 成仏する事がですか?」 『はい。いくら辛い事があったとはいえ、彼にだって夢はあったと思います。それを諦めて成仏するのですから』 「それが理由ですか? あなたは彼が好きなのではないのですか? だから一緒に住んでいるのではないですか?」 ーーー好き?彼を?私が? 「未練を断ち切ってください。 そして、彼に出来る事をしてあげてください」  住職の言葉に胸が苦しくなった。  この二年間、社会から取り残されたような気がしていた。学生でもない、社会人でもない。自分は何処にも属せない人間であることがとても心細かった。  きっと彼も居場所を探していたんだと思う。  ここにいさせてあげる事が良いのか、行くべき世界に行かせるのが良いのか、どれが彼を幸せに出来るのだろう。
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