第十六章 想い

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第十六章 想い

ーーーそうだ。私‥私‥  頭の中がフラッシュバックした。  10年前に起きたマンションの火災で住民全員が巻き込まれその中に自分もいた。  私は、火の手を逃れる為にマンションから飛び降りて‥。 「姉さんは僕が10歳の時にこのマンションの火事で亡くなりました。 10年が経ち、僕も社会人になり念願の会社に就職しましたけど上手くいかない事ばかりで。 帰宅するのはいつも夜中で、ただ寝る為だけに帰って来ているようなものです。 ただ生きてるだけの毎日でした。 その時リニューアルしたこのマンションが入居者を募集している記事を見たんです。 直ぐに応募しました。 東京で頑張っていた姉さんの近くに行けば何かが変わると思って。 ところがある日姉さんの声がしたんです。 僕を励ましてくれる姉さんの声が。 幽霊になっても僕を心配してくれている。 僕は一人じゃない。 それを思い出させてくれました」  そう言って、彼は泣き出し始めた。 ーーー陽向!  夢香は駆け寄って彼を抱きしめた。  陽向の身体がピクリと動くと、夢香の手に自分の手を重ねる。 「姉さん‥‥姉さんを感じる」  夢香の目にも涙が浮かぶ。 ーーー私の夢は叶わなかったけど、陽向の夢を応援する事が出来る。  陽向から離れると、管理人と栞里が寄って来て夢香の肩に手を置いた。  二人は住職に向かって頷くと、徐々に身体が透けていき、やがて消えてしまった。  夢香の姿も徐々に薄くなり、一粒の涙を床に残し消えてしまった。 『私は夢を叶えられなかったけど、陽向は叶えられたじゃない。 私より凄いよ。夢のその先にいるんだから。 大丈夫。陽向なら出来る』  その声は床に落ちた涙の前にしゃがんでいる陽向の耳にはっきりと聞こえた。
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