第三章 隣の住人

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第三章 隣の住人

 505号室のドアを開けると、白と黒を基調としたシンプルな部屋が現れる。  女の子らしい部屋ではないが、夢香はこの方が落ち着いていて好きだった。  部屋の真ん中にある小さな机の上には一輪挿しのガラスの花瓶にブルーの小さな花が生けられている。  『勿忘草(ワスレナグサ)』と言う花だ。  花言葉は『私を忘れないで』  その切ない言葉が好きで、実家でもこの花を飾っていた。  チャイムが鳴りドアを開けると、同じ年くらいの女性が笑顔で立っていた。 『私、この5月に越して来た隣の504号室の『伊崎 栞里(イザキ シオリ)』と言います。宜しくね』  と両手に持った紙袋を手渡された。 『近所のケーキ屋で買ったもので、良かったらどうぞ』  紙袋には『バームクーヘンの店 極み』と書いてあった。  そういえば近くに美味しそうなケーキ屋があるなと気になっていた。  そう言うと、彼女が嬉しそうに答えた。 『そうなの!ここのマロン味のバームクーヘン最高に美味しいんだから!』 ーーー良かった。明るくて優しそうな人。 『私、天野夢香です。私も5月に越して来ました。宜しくお願いします。 あ、でも、何も買って無くて』 『いいのよ。それより20歳なんでしょ?管理人さんに聞いたけど。私、22だから歳近いね』 『あ、うん、じゃあ、宜しくね。 えっと‥‥』 『栞里でいいよ。私は夢香って呼ぶから』 『分かった。栞里、宜しく』  飾らない栞里の喋り方に、自然と夢香もタメ口になる。  現在大学四年生で、希望の会社に内定を貰ったとかで嬉しそうだ。  みんな夢に向かって進んでいるんだな、と思うと嬉しくなった。
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