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「――調子にのんな!!」
「ぐっ!?」
わたしは思い切り力を込めて哲也の足を踏んだ。よろめいた隙を狙って、彼の腕の中から抜け出す。
そして、言った。
「何があったか知らないけど! 腐ってんじゃないわよ! 馬鹿哲也!!」
子供だった時のように叱りとばすと、哲也は目を見開いてわたしをまじまじと見つめた。わたしはそれではっと我に返り――逃げた。
「あ……待てよ!」
後ろから、哲也が追ってくる。
わたしは止まらない。
だけど、男と女の身体能力の違いは如何ともしがたくて、すぐに捕まってしまった。
「なんだよ、何もしらねーくせに、久し振りに会って説教とか……」
「……」
「……すげえ会いたかったのに」
わたしの腕を掴んだまま、哲也はうなだれている。わたしは何かを言おうとして、やっぱり何も言えなくて、そのまま突っ立っていた。
「……話、聞いてよ。それでチャラにしたげるから」
上から目線だな。
とは思ったけど、でもそうは言わなかった。
哲也はなんだか今にも泣きそうな目をしていたし、わたしも今更もう一度逃げる気にはなれなかった。
「いいよ、聞いたげる」
「……えらそー」
「年上だし……」
姉だし、とは言えなかった。
姉弟じゃないけど、他人とは思えない。微妙で、でもなんだかくすぐったいような感情が、ある気がする。
「だし?」
「なんでもない。ほら、話したいならさっさと話す!」
「なんだよ。ほんとえらそー……変わらないな」
哲也が笑う。六年ぶりに見る、陰のない笑顔に、わたしの胸はなぜか音をたてた。
雨は、きっともうすぐあがる。
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