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プロローグ
カッコウの託卵。カッコウは別の鳥の巣に卵を産み、子供を育ててもらうらしい。
何故そんな事を考えたのかというと、今、目の前で似たような事をした義母が父と修羅場を繰り広げているからだ。
はっきりとした話は聞いてないけど、お互いに怒鳴ったりしてるのを聞くと、たぶんそんな感じなんだと思う。
離れたところでぼんやり喧嘩を見ていたら、つん、と服を引っ張られた。
話の真ん中にいる託卵の卵、弟の哲也だ。
「あず姉」
「なあに」
「俺、あず姉の弟じゃないの?」
心細げに問いかけてきた哲也はまだ十歳だ。私より二つ下のくせに生意気な弟、だったのに。
弟じゃなかったらしい。
「私はお父さんの連れ子ってやつだし、そうなるね」
「そっか……」
うわ、哲也が泣きそうだ!
私はその時初めて慌てた。今までは、なんかドラマみたいだとか思っていて、現実感、というやつが無かったんだと思う。まだ私も子供だし、どうしたらいいのかわかんないし。
でも、目の前で哲也が、ケンカして怪我しても泣かない弟が泣いてるのを見たら、急にいろんな事が現実味を帯びてきて、わけがわからなくなってきてしまった。
結局、私も泣いてしまって、哲也と二人、泣き疲れて眠るまでずっと泣いていた。
両親が離婚したのはその二ヶ月後だった。
わたしと哲也は戸籍上も姉弟じゃなくなって、家族じゃなくなって、別々に暮らし始めて、……そのまんま。
母親に連れられて転校していった哲也に再会したのは、それから六年近くも経ってからだった。
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