6人が本棚に入れています
本棚に追加
「でもね、夏場の海岸線は車の渋滞が酷くて、20分経っても救急車のサイレンすら聞こえなかったんだって。その間にも暑さと衰弱で子供はどんどん弱っていって、そこに居たメグミさんはある決断をしたの。彼女は、その子供を抱いてコックピットに乗り込んで、ヘリを飛ばしたのよ」
この時メグミのとった行為は、勿論許されざる職務規定違反だ。
現にこの時、もう一人の搭乗員はメグミの行動を静止し、彼女に強く抗議したのだと言う。
「でもね、メグミさんはバディーを務める相棒の胸ぐらを掴んで、こう怒鳴り飛ばしたんだって……」
「一人の自衛官として、私はこの国の国民を守る事を仕事にしているつもりです。もしもこの件で私が自衛隊を除隊させられたとしても、私は自衛官以外の道でいくらでも生きていけます。でも、この子は今搬送しなければ死んでしまう。今このヘリを使う事でこの子を救えるのなら、私は自衛官の誇りにかけてこの子と共に飛びますよ」
彼女はバディーである搭乗員にそう言って、本当に子供と共に飛び去ったそうだ。
その後コノハ大尉は、神奈川県伊勢原市にある東海大学附属病院のヘリポートに強行着陸を行い、無事に幼い命を救う事に成功している。
「でもメグミさんは、当然その事件の責任を追求されて、自衛隊内の査問会議にかけられた。でも彼女が助けたのは、当時の防衛副大臣の娘だった……」
この事件当時少尉だった彼女は、こうして本来何らかの処分が下されるはずの査問会議では無罪放免となり、それどころかその勇敢な行動を称賛された後、異例の二階級特進となった。
そして今、彼女はオーシャンライナー隊の隊長をつとめている。
「そういう所、自分だって全然変わってないんだから」
窓の外から流れ込む風に当たりながら、ソラは少しだけ目を細めて微笑んだ。
続けてソラはアイカの方に振り向くと、ニカッと笑ってこの話を締め括った。
「神様は見てるんだなあ」
と。
最初のコメントを投稿しよう!