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ペンギンの恩返し
次に目が覚めたときは、だいぶスッキリしてた。頭の痛いのも、いくらか良くなってた。トイレに行って、顔も洗って、さらにスッキリしたところで腹が減ったので何か食おうと思って部屋の中を、何の気なしにみると真新しいタオルが目に入った。
「えっと・・・なんだっけ。」
うちには使い古したタオルしかないよな。なんでこんな新品が。
そこまで考えた時に思い出した。いや、あれは夢だ。夢だ。ペンギンがタオルもって引っ越しの挨拶に来た夢のはず。
しかし新品のタオルは存在する。手に取って見たら、ひらひらと紙が落ちた。名刺だ。そうだ名刺もあったな。
名刺を見ると
「冷凍技術社 氷のソムリエ 特殊技術職 KOURIYAMA REITO」
そこに会社のロゴだろうか、白黒の楕円というかマンガの吹き出しのようなでっぱりのあるマークがついてた。見ようによってはペンギンの顔に見えなくもない。
「こうりやま・・・れいとう?」
いやいや氷山冷凍って名前じゃないよな。これは郡山礼人だろうよ。常識的に考えろよ。ペンギンに見えたけど、それは見間違いで普通の人だったんだよ。まだ酔っぱらってたんだよ。
混乱しつつも「常識」の二文字でなんとかねじ伏せて、カップ麺でも作ろうと湯を沸かした。
そして出来たカップ麺を食べ終わるころだった。カップ麺の汁まで飲み干したところでドアの外で派手な音がした。
がっしゃーーん、カランカランカラン・・・。
なにかと思ってドアを開けてみたら、ゴミ袋が破れて缶やペットボトルが転がっている中に見覚えのある白と黒の物体が転がっているじゃないか。
とにかく散らばったゴミを拾って、ペンギンに見える生き物を抱えて自分の部屋に運び込んだ。
まだカップラーメンのにおいのする部屋に入ると、ペンギンと思われる生き物がびくっと動いた。生きてるみたいだな、良かった。死んでたらどうしたらいいのか、困るところだったよなあ。燃えるゴミにしてもいいところか悩むし。
ちょっと不謹慎なことまで考えたのだが、生きてるなら生きてるでどうしたらいいんだ。
「ええっと、とりあえず座布団にでも寝かせればいいかな。」
さすがに自分のベッドに置くのはためらった。ペンギンだからって言うこともあるけど、なにしろベッドの上は物が散乱してるからスペースを作るのも面倒だ。
「ああ・・・お、お腹が空いた。」
ぐきゅぅぅぅというお腹の鳴る音が盛大に響いた。
ペンギンが喋ったっっ。え、いまのってペンギンの声だよな。俺じゃないし。ペンギンって喋れるんだっけ。
混乱の極みのはずなんだけど、自分が意外と冷静な声でペンギンに返事をしているのに、ちょっと驚いた。
「カップ麺、食べるか?」
「あ、お願いします。お湯じゃなくて水でもどして。」
「水?」
「ええ、お湯だと熱くて。水入れて30分すれば食べれるんです。」
「あ、うん。わかった。じゃあ水入れるから。30分な。」
「すみません。お手数かけます・・・。」
横になったまま、ペンギンがうっすら目を開けていたのを閉じた。
死んだのかと思ったけど、ちゃんと息をしているのが分かったのでカップヌードルに水を入れておいた。
俺の部屋にはテーブルなんてしゃれたものはないからコタツが出しっぱなしで、さっきもそこでカップヌードル食べてたわけなんだけど、ペンギンは寒いところの生き物だし、コタツに入れた方がいいものかどうなのか迷いに迷って、結局はとりあえず座布団に転がしておいた。まあ気持ちの問題で、さっきもらったタオルをお腹にかけてやっておいたけど。
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