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その後
あれは人生のイレギュラーな花火のようなもんだからと、自分では思っていたのだが、なんとあれから同僚の子とは時々お茶を飲んだりご飯を食べたりと、いわゆるデートをするようになった。びっくりだ。自分が信じられない。
実は、あのアイスショーの後は彼女がお礼をどうしてもしたいということで、今迄入ったことがない高級ホテルのラウンジでお茶を飲むことになった。彼女が予約して支払いもしてあるからと、無理やり連れていかれたんだが。
そこで知ったのが実は彼女が、このホテルのオーナーの一族だっていうこと。
なんでも一族の決まりで縁故のないところに就職して3年働くっていうのがあるらしい。そこで、どれだけ人脈を作れるかで一族の中のステイタスが決まるらしい。大変だなー富裕層も。
俺には関係ないことだと思ってたから、お茶を飲んだらさっさと帰るつもりだった。ますます高嶺の花っていうか世界が違うじゃんか。明日から会社で顔を合わせても、いっそ清々しく普通に振る舞える。
「おお、この人かね。」
突然現れた白髪の小柄なじいさん。ただものじゃないっていうのは周りの雰囲気というかティールームの従業員たちがピシッと最敬礼しそうな様子なので分かった。何者なんだ。まさか・・・
「あ、おじいちゃん。こちらが今日、私をアイスショーに連れて行ってくれた人なの。」
「うむうむ、そうかそうか。孫にチケットをくれたそうですね。あのチケットは難しいのに、よく。それもS席だそうで。大したもんだ。」
「え、いえ。ちょっと知り合いに貰ったもので・・・」
もごもご口のなかで言うのが精いっぱい。
「いやいや、そういう謙遜はよろしい。君の人徳だな。うむ、じゃあ若い者の邪魔になるから私はこの辺で。楽しんでいってくれたまえ。」
からからと笑いながらティールームから出ていくのを、そのフロアの従業員全員が恭しくお辞儀をしているので、もうなんか変な汗が出る。
「あの、おじいちゃんって・・・」
「ここのホテルグループとか、いろいろ持ってるの。」
「それでここを予約したんだ。」
「あー、そこはコネは使ってないけどね。そういうの嫌いなの。ただどうしてもバレちゃうから、こんな貸し切りみたいになっちゃって。ゴメンね。びっくりしたよね。」
「あ、うん・・・。」
「会社には内緒にしてね。バレたら会社を辞めなきゃいけないの。」
金持ちの上流階級ですごい家の人間って分かったら、いろいろと面倒くさいだろうなって言うのはうっすら分かった。
「うん。わかった。」
「ありがとう。」
で、口止めの代わりなのか、そのあとからは会社での密着が増えるようになった気がする。「付き合ってる」っていうのかどうかはビミョーなところで、手も握ったことがない「清い間柄」。
だって上流富裕層の娘なんだぜ。俺と釣り合うわけない。向こうだって、俺なんか眼中になかろう。うんうん。自分でそう思うのはちょっとワビしいもんだけど、実際そうなんだからな。
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