公爵令嬢、結婚なんて嫌だぜ

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公爵令嬢、結婚なんて嫌だぜ

 さて、どうしたもんか。男に嫁ぐというこの難題に対して。  風呂に入りながら考えている。薄紅色の花弁をいっぱい浮かべたジャグジーだ。  この世界、もしかしたら地球の近代文明くらい栄えているかもしれないぞ。魔法があるからな。  風呂の前に入ったトイレは洋式便座で、魔法陣に手をかざせば音が鳴り、用を足した後は自動で水が流れた。  ジャグジーも、豊富なお湯を湛えた足も伸ばしてゆったり座れる丸型のバスタブで、バスタブの脇や壁のタイルの上に魔法陣が描かれ、それに触れてはお風呂メイドさんたちが湯の温度・湯量・泡量の調節をしてくれている。  魔法陣を使う文明すごい。殆ど現代日本と同じだ。  これまで公爵令嬢キリアネットとして生きて来て、魔法のことも、このシステマチックな魔法陣の運営に関しても知ってはいたが、こうして前世の記憶を甦らせた今、新しい視点からの考察というのも悪くない。  考察と言えば――――。  確かこの国は山岳地帯に囲まれた地形上、農耕地が少なく、主産業は魔法石の産出で、精密魔法陣産業が盛ん。冬も厳しめ。  逆に、隣国は海洋に面した国で温暖、海外貿易が盛ん。水産加工物、酪農・畜産での加工品、また穀物も豊かに育つ。  と言うことは、軍需産業的に貿易品が多く耕地面積が広い隣国に軍配が上がる。が、この国の魔法陣技術は世界一とのことなので同等の国力なのかも。だからこその同盟強化で政略結婚を――――。  と、ふむ、つい前世で地政学をかじっていた癖なのか、要らぬ考察をしてしまったが。いやでも、折角の未知なる魔法文明の世界、多方面から楽しく解き明かしてみたいではないか――――。  などと、風呂に入ったまま考えながらメイドさんに髪の毛を洗ってもらう、この贅沢よ。ヘアオイルと二の腕にもオイルマッサージを施してもらい、背中の垢擦りに、うぶ毛まで剃ってもらっちゃってここはローマのお風呂屋さんかなって感じのサービス具合。  ふええい……なんとも気が抜けちまうぜえ…………。  風呂上がり、トロピカルな濃いオレンジ色したジュースをいただきながら、もう一度、だいじなこと、思い出してみよう。  俺、男に嫁ぐってよ。  嫌じゃああああああああああああああ  無理に決まっている。結婚するだろ。その日は初夜だろ。ベッドイイーーンンするだろ。男が、俺に、迫って来るんだぞ。男の手によってこのキリアネットちゃんの美ボディをいいようにまさぐられるとか、考えただけでも虫唾が走る。鳥肌が立つ。気色悪い。  こう胃の腑をキュッとされた感じでキモイ。ゲロるわ。あ、そうだ。ゲロろう。  ただ嫌がるだけじゃ組伏されてヤられてしまう。心は男でも体は女だもの。腕力じゃきっと王子にも敵わない。  そこでゲロだぜ。  披露宴で食べたもの全部吐き出してやるぜ!  どうせ政略結婚。愛のない同士の、子作りだけが目的のものだろう。  相手がゲロれば、えんがちょってなって初夜は台無し。花嫁なんざ放って部屋から出て行くはずだ。  もし、その後もしつこく迫って来たら、その度にゲロってやろう。そうしよう。そうやって子作りを避け続けていけば白い結婚で離縁できると思う。  特に王子なんて跡継ぎ必要だろうから、孕めない女は追い出されるに決まっている。  ふふふ。ゲロろう。そうと決まればゲロを吐く練習をせねば。うまいことピンポイントに、その時その瞬間、王子の眼前に吐き出さなければ効果がないからな。なんなら王子にぶっかけてやんぜえ。ふふふ。  俺は不敵に笑いながら指を喉奥へとつっこみ、おいしく飲んでいたフルーツジュースを吐こうとして――――盛大に咽た。 「ぐっふぉゴホゴホぉ」 「おおおおおお嬢様ああぁぁぁぁ」  ゴリラが即行やって来た。ナプキンで俺の口元を拭いまくってくれる。 「鼻からもジュースが零れ落ちておりまするううどおおしてこのような真似をおおおおおお」  おう。勢い余って口だけじゃなく鼻からもジュースが、な。胃液と共にせり上がって、こう、ダバーと。  けっこうキツイんだぜ。上手に吐くって難しいぜ。
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