公爵令嬢、ぼっち確定だぜ

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公爵令嬢、ぼっち確定だぜ

 どうしてこんなこと――――放置子みたいなことされているのか――――ということは、記憶を探ってみて原因が分かった。  大叔母の存在である。  大叔母とは祖父の妹であり、この公爵家では嫁ぎ遅れの小姑であった。  祖父母の時代、祖母がこの家に嫁いで来た頃は小生意気な12歳児であったという。12歳児はブラコンであったので、兄である祖父が祖母と仲良くするのが許せず、祖父母の仲を引き裂こうと、あの手この手で悪戯を仕掛けたらしい。  小姑伝説の始まりである。  悪戯は父が産まれても()まなかったし、その頃には成人して大人しくなるかと思いきや、今度は父に嫁いで来た母にも意地悪をし続けたそうだ。  母がこの家に来た当時で大叔母は35歳。貴族社会だと立派な嫁ぎ遅れであった。  大年増となり、もう結婚なんて夢見る乙女心は放棄したのだろう。その代わりなのか、甥っ子の子であるキリアネットが産まれてからは、良縁を結ぶのに躍起になっていたという。  そしてとうとう、どこからか隣国の王家との縁談を取り寄せ、俺と王子を婚約させた。  キリアネット6歳、初春の頃の話である。  そんな俺が男に嫁ぐ羽目になった元凶、大叔母がご機嫌伺いにやってきた。  せっかくトロピカルな気分で日光浴を楽しんでいたのに、「モクサロンティーヌ様がお見えです」とゴリンダに告げられ、渋々だが茶席を用意した。  用意したのはキリアネット付きのメイドさんたちだが、主人は俺なので、主賓である大叔母を出迎えるのは俺。  とりま、にこやかにお出迎えしよう。にこにこ。 「あら、変な顔して気持ちが悪い。淑女たるもの、そのような安いつくり笑いは必要ありません。既に教えたことでしょう。できないとは言わせませんよ。まったく、もう嫁ぐ身だというのに、優雅に微笑むこともできないとは、恥ずかしい子ね。母親があれだから悪いのね。それとも隔世遺伝でお義姉様が悪いのかしら。折角、わたくしが教育してあげたのに、これだもの。できの悪い子は産まれた時から悪いのよ」  思い出した。大叔母は嫌味モンスターだったぜ。そしてよく喋る。  少しの失敗を大袈裟に上げ連ねて扱き下ろすし、キリアネットへのお小言かと思いきや、母そして祖母へと攻撃先が変わるのが特徴だ。  よくもまあ、そこまで他人を貶すことができるもんだと、ある意味で感心してしまう。 「聞いてるのキリアネット。お前は茶会のひとつも満足にできないのかしら。客であるわたくし一人すら持て成せないでどうするの。隣国でのマナーはこれの比でないくらい厳しいものですよ。王家に嫁いで恥をかくのはお前なんですからね。お城の皆さんや、国民の皆様に愛される王妃にならねばなりません」  おお、矛先が隣国へと向いてしまったぞ。 「だいたい、あの、戦にも出たことのない、軟弱な王子に我が公爵家の娘をやるのですから、少しはまともに礼を尽くすべきなのですよ。手紙は寄越さない、贈り物のセンスもない、年に一度の会う約束はすっぽかす。そんな不誠実な王子殿下に嫁ぐのです。お前がしっかりしていなければ、あの王家は滅びますよ」  ひえ、王家批判。滅ぶとかヤバいこと口に出しちまったぞ、このオバハン。まあ、日常茶飯事に喚いているからか、誰も止める者も真面目に捉える者も、いないんだがな。  この後も、大叔母の口からは相手を貶す言葉が溢れ、誰かの悪口が壊れた蛇口の如く垂れ流され続けた。 「やっと帰った……」  数時間は毒舌ガンガントークだったぜ、あのババア。確か今年で65歳くらいだと思ったが。元気すぎる。いい加減、領地の奥にでも引っ込んで欲しいもんだ。  残念ながら、まだまだ王都の本家に居据わる気のようで、俺が今住んでいる本館とは別の棟の方に大叔母の棲息地があり、たまに本館へと餌を求め(貶す相手を見つけるため)這い出て来るのだ。  そういうモンスターだと思っておこう。  しかし、あんな大叔母が居たんじゃ、母も祖母も、さぞ苦労したことだろう。  あ、だから今もこの家にいないのか。全員もれなく逃げ出したんだな。俺を置いて。  気持ちわかる。でも、一番幼い子供を生贄に、当主まで逃げ出すとは尋常じゃない家庭だぞ、ここは。  実際、キリアネットが産まれてからの大叔母の執着は常軌を逸していたらしい。  キリアネットを完璧な淑女にするため、数多くの優秀な家庭教師、その専門分野の教師も雇い、大叔母も自ら教育を施していたようだ。  体罰は無かったみたいだが、あのマシンガントークでネチネチネチと嫌味を言われ続け、キリアネットの精神は崩壊寸前。キリアネットの無口・無表情・無感動な能面状態からしても、大叔母の教育という名の精神攻撃は災害級なのかもしれない。  と、冷静に第三者視点で分析できるのも、前世の記憶である俺が目覚めたからだな。  これまではキリアネット一人で耐えていた。家族の誰も味方してくれない、この孤独な館で――――。
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