王子、気づいたよ

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 同ベッド内で糞便爆弾をくらった私はゴロゴロ転がる。即、格子に背中がぶつかり、止まるけど。  うんこゴリラから逃れたくて辺り構わず蹴っ飛ばした。 「あらあら、殿下がご乱心ですわ」 「ふふふ、ヒューったら元気ね」 「はっ、王妃殿下」 「気にしないでちょうだい。そのままゴリンダを見てあげて」  柔らかな声。お母さんかな?  隣のゴリラは乳母だと思われる人に抱き上げられた。うんこの臭いから遠ざかる。助かった。 「ヒュー、活発なのは良いことだけれど、女の子には優しくね。ゴリンダがびっくりしてしまうわ」  私の癇癪を窘める声。その声は愛情に溢れていて、優しい。もっと聴きたくなる。 「だぁぅ、まァー、まま、あえ、ぎょいア!」 (訳:だってさ、聞いてよママ。隣人ゴリラなんだよ!) 「母がわかるの? 上手に母を呼べるわね」 「殿下は時折、喃語をお喋りになりますよ。まるで、こちらの会話を理解して、相槌することも御座います」 「賢い子ね。さすが私の子だわ」  おおっと母上、自画自賛だ。まあ、実の母に気味悪がられるよりは良いけど。  オーホホホと高笑いを扇で隠しつつ退出してしまった、母上。  ……私を抱き上げたりせんのかい?  しないのでしょうね。王妃って呼ばれていたしな。  私は殿下だってさ。王族ってやつなのでしょう。  えらい高い身分に生まれ変わってしまったよ。ティンコ生えただけでも動揺しているのに、更に圧し掛かってくる「我はプリンス問題」に戦慄するわ。  そして「隣はゴリラ問題」ときた。  毛深い。毛深いぞ、ゴリンダとやら。  お尻を綺麗に拭かれたゴリンダは、再び私の横に寝かされた。下半身すっきりして寝てしまったゴリラ。毛、毛が、ゴリンダ毛が私の鼻をくすぐる。 「え、えっ、えっくちょっっ」  くしゃみが出てしまったがな。 「あら大変。青っ洟が垂れておりますわ。お鼻を、おかみになりますか?」  柔らかな布が鼻に当たる。これ、高級シルクだね。前世、鼻セレブ並のしっとり布が顔面に。  お鼻チーンですか。できますよ。遠慮なく、鼻汁ビームを放った。腹筋に力を込めて鼻から空気砲ですわ。 「やっぱり理解しておいでですわね」  あ、しまった。普通の赤ちゃんなら鼻チーンは無理か。  前世、職場の事務所には子連れの客が多くて、何度か赤ちゃんのお世話をしたことがある。独身なのに、彼氏すらいないのにと嘆きつつも、赤ちゃんは可愛い。それなりに構った。  赤ちゃんというのはフリーダムな生き物で、鼻を拭いてあげても嫌がって逃げる子の方が多かったように思う。大人しく拭かれるのは稀有な子という認識。  実際、「お鼻チーンしてね」って声を掛けて、勢いよく鼻ビームかますような赤ちゃんは……いないな。ゼロ歳児の知能で理解できるわけがないもんな。 「殿下はきっと、賢王に御成りあそばすわね」  上品に微笑む乳母さん。こげ茶髪と碧眼の、若そうな女性だ。  お腹減ったと泣けば、惜しみなく見事なおっぷぁいをさらして乳を与えてくれる。  多分、ゴリンダのお母さんなのだけど、私の世話もしてくれて、平等に慈しんでくれる素敵な乳母さんだ。  こうして私は、人間がゴリラを産むという不条理をさらっと受け入れ、ゴリラと共に育つ環境にもいつしか馴染んで、隣はゴリラ問題も棚上げにし、爆睡するのだった。
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