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王子、婚約したってよ
6歳になった頃、また気づいた。気づいてしまった。
この世界が、乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』であることに。
ゴリラというパワーワード……。
元々このゲームの原作は小説で、後に有志が企画して同人ゲームとして販売されたものだ。
前世の私はSNSで広告をみつけ、クセの強いタイトルに導かれ、ついダウロードしてしまったのだ。
内容は、そりゃもう主人公のゴリラがキラキライケメンたちを侍らせてウホウホしておりましたよ。
従来の乙女ゲームと一緒。プレイヤーはヒロインを通して疑似恋愛を楽しむ。ただし己はゴリラなので注意せよ。
立ち絵、表情絵、たまに訪れる大画面での迫力あるゴリラ絵さえ気にしなければ、王宮にいる王子様・宰相補佐官・近衛騎士・宮廷魔導士・王の影、シークレットで王弟と、お好みの攻略対象者とラブラブできる。
同人ゲームだけど、絵のクオリティが高かった。その分、ゴリラも物凄くゴリラだったけどね。
そして6歳の私。この世界がゴリラ乙女ゲームの世界だと思い始めたのは、婚約者の姿絵を見せてもらってからだ。
一国の王子ともなると、幼い内に婚約者を決められてしまうものらしい。本人への打診すらなく、「この娘が、お前の婚約者だ」と。既に決定であり、事後報告というわけ。
父上(国王)よ、久しぶりに会ったと思ったらこれですか。もみあげと顎髭がふさふさダンディなイケオジだけど、今はその毛を根元から毟りたい気持ち。
毛もじゃ(国王)のことは置いておいて、私の婚約者について。
彼女の名前はキリアネット・オターベル・フィスティンバーグ。隣国の公爵令嬢だ。
見せてもらった釣り書きには似顔絵も添付されており、その姿絵を見た瞬間、ビビビッときたね。
この子、めちゃくちゃ可愛い。どこかで見たことある神秘的美少女。
え、妖精? 若しくは天使かな?
顔立ちがちょっとキツいけど、こりゃ将来は美女になるね。まさに悪役令嬢顔。
はっ、悪役令嬢、だと……?
そこから思い出すゴリラ主人公の乙女ゲーム、そのワンコーナーである「思い出のアルバム」を……。
まるで天啓を受けたかのように溢れるイマジネーション。
『王子、ご幼少のみぎり、ゴリンダと寝る御姿』
『ゴリンダと再会。惹かれ合う二人』
『素晴らしい! ゴリンダのアイデアで魔法陣開発が進んだよ』
『はい、あーん。お互い近づく距離にドキドキ』
『プロポーズ、指毛に絡むシルバーリング』
『結婚式、二人の愛は永遠に……』
て、んああああああああああああああああゴリラがあ! ゴリラがあ! ドレス着たゴリラな令嬢であるゴリンダがああああ私の脳内を占めるんだが! やめて私の脳内は限界よ! これ以上のゴリラは容量オーバーだってばよ!
そんな怒涛のゴリララッシュの中での癒しの影、チラッと見え隠れする美少女、マイエンジェル悪役令嬢キリアネットちゃああああんんんん!
はぁ、はぁ、どういうことだ?
癒しのエンジェルであるキリアネットちゃんが悪役令嬢、とは?
ヒロインをいじめる悪役令嬢って……そんなわけあるかい!
キリアネットちゃんの見た目は卵型の面に並ぶ整ったパーツ、潤んだスカイブルーの瞳、可愛い小鼻、さくらんぼのような可憐な唇はぷっくり美味しそう。白い肌を染める朱けき頬、形の良い耳まで可愛らしく、その耳にかかる青銀の髪はサラサラのストレート……。
だからさ、妖精だってばよ。妖精な彼女がゴリラをいじめるわけがない。そもそも生活圏が違うわい。
ところがゲーム内では、花嫁修業と称して隣国からキリアネットがやってきて王宮内に住むのだ。生活圏を無理やり一緒にするとはなにごとか。
王子の乳母の娘であるゴリンダは、そんなキリアネットの侍女として仕えることになる。
王子の婚約者の御側付き用人となったゴリンダは、王宮内の適齢期な美男子たちと恋に落ち、結ばれる。
逆ハーレムもあったはず。メスゴリラ中心ハーレムってなんだよ。王宮はジャングルじゃないんだぞ。
恐ろしいことに、私(王子)もそのゴリラハーレムの一員に入っていた。そう、私は攻略対象者なのだ。しかも一番チョロい攻略者。幼馴染で、同じ王宮に暮らしていて気心も知れた王子様だからだな。
無理。ゴリラ無理。そもそもゴリラと恋に落ちない。
ゴリラと触れ合えるか? 無理。
ゴリラと誓いのキスできるか? 無理。
ゴリラと初夜をこなせるか? 無理。
無理だから。私は女だし、体は男だけども、それでも前世女の記憶がある限り、ゴリラ(♀)とのベッドインは無理です。
無理を押して初夜を迎えてみろ。吐くからな。ゲロってやんよ。さすがのゴリラも初夜でゲロる相手には触りたくもあるまい。そうであって欲しい。
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