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「山路は消えません。私が継ぎます」
父は渋い顔をしたものの、この場で反対しなかった。
母は父の顔を見て黙っていた。
父が良ければ、それでいいと思う人だから、今は何も言わないと決めたらしい。
「そいつがどれだけの腕だというんだ。吉浪の料理長よりも上だと言うのか?」
「腕は私が保証しましょう」
現比の背後から現れたのは、蓮華楼の主人で料理長――沙耶音の父親だった。
「蓮華楼の料理長……」
料理人たちが尊敬する蓮華楼の料理長から言われては、永祥さんは黙るしかなかった。
「狛……いえ、現比さん。山路の旦那がいなくなり、寂しいことでしょう」
「いや、立栞がいるから賑やかだよ」
現比は蓮華楼の料理長とも知り合いらしく、現比は懐かしそうに目を細めた。
「年をとったな。お前も」
「年をとりましたが、腕も上がりました。一度、現比さんに食べていただきたいものです」
「気が向いたら」
天下の蓮華楼の料理長に『気が向いたら』などと言う人はどこにもいない。
けれど、現比の失礼な言葉に気を悪くした様子はなく、にこにこと笑っていた。
「立栞ちゃん、どうだった?」
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