4 犬は知っている

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「山路は消えません。私が継ぎます」  父は渋い顔をしたものの、この場で反対しなかった。  母は父の顔を見て黙っていた。  父が良ければ、それでいいと思う人だから、今は何も言わないと決めたらしい。 「そいつがどれだけの腕だというんだ。吉浪の料理長よりも上だと言うのか?」 「腕は私が保証しましょう」  現比の背後から現れたのは、蓮華楼の主人で料理長――沙耶音の父親だった。 「蓮華楼の料理長……」  料理人たちが尊敬する蓮華楼の料理長から言われては、永祥さんは黙るしかなかった。 「狛……いえ、現比さん。山路の旦那がいなくなり、寂しいことでしょう」 「いや、立栞がいるから賑やかだよ」  現比は蓮華楼の料理長とも知り合いらしく、現比は懐かしそうに目を細めた。 「年をとったな。お前も」 「年をとりましたが、腕も上がりました。一度、現比さんに食べていただきたいものです」 「気が向いたら」  天下の蓮華楼の料理長に『気が向いたら』などと言う人はどこにもいない。  けれど、現比の失礼な言葉に気を悪くした様子はなく、にこにこと笑っていた。 「立栞ちゃん、どうだった?」
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