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「料理人として道を究めるもひとつの道だ。私は応援してるよ。もし、困ったことがあるなら、蓮華楼に来なさい。まあ、現比さんがいるなら私は必要ないが」
そう、というように現比は首を縦に振る。
「山路の味で俺が知らない味はない」
蓮華楼の料理長は二度と食べられないと思っていたからか、とても嬉しそうに微笑んだ。
苦しい時に食べた祖父の芋ようかん。
祖父がなにを言ったか知らないけれど、それが今の料理長の軸となっていて目指すものなのだろう。
「彪助の芋ようかんか」
「食べると初心にかえることができる貴重な味です」
「わかった。立栞と一緒に作る。作ったら届けよう」
「それは嬉しい。楽しみにしています」
――私と一緒に?
思わず、現比の顔を見た。
「立栞は料理を作れる。俺が保証する」
狛犬が保証してくれるなら、きっと私はもう一度、料理を作れるようになる。
「うん……。私、また作れるよね」
「ああ」
両親は現比と出ていく私を止めなかった。
一番反対していた父親は、渋い顔をしていたけど、山路に戻る私を黙って見送った。
本当は誰よりも祖父の味を失いたくないと思っていたのは、父だったのではないだろうか。
消えていく店。
生き残る店。
難しい時代を生き抜くため、父は祖父とは別の道を選んだ。
それも間違いではない。
――けれど、私は祖父の山路を残したい。
山路を守る決意をした。
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