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大通りの銀杏並木を歩き、私と現比は山路へ戻ってきた。
地下鉄にはに乗らずにバスを使ったけれど、その理由が――
「地下鉄の乗り方がわからない!?」
「謎の機械がある」
もしかして、自動改札機のことを言っているのだろうか。
電子レンジや冷蔵庫は使いこなせても、自動改札は慣れないらしい。
蓮華楼で見た現比のかっこいい姿は幻だったに違いない。
お見合いがあった日、着物を着替えたら、その日はもう動けなかった。
――起き上がれない。
次の日になっても起き上がれなかった。
悔しくて情けない気持ちで天井を眺めていた。
昨日、言われたことが忘れられない。
『噂で聞いたのですが、立栞さんは料理を作れなくなったとか』
『料理の作れない料理人を雇う店はありませんよ』
幸せなことを思い出すより、嫌なことばかり思い出してしまう。
――こんな弱い私に、きっと現比も呆れている。
そう思った時、犬の足が私の顔にのっかった。
「むぶっ!?」
「立栞。体調はどう?」
肉球がぷにっと顔に触れ、やわらかくてあたたかい。
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