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「犬よねぇ……。でも、犬じゃないのよね……?」
犬は犬でも狛犬である。
なんにせよ、どんな霊験あらたかな力を使ったのか、起き上がれるようになったのはありがたい。
服を着替えて、顔を洗って鏡を見る。
二階の窓から見える竹林は暗く、今日が終わろうとしていた。
でも、仕出し屋『山路』は今から開店する。
――現比のおかげで、なにもできなかったって思わずに済む。
階段を降りていくと、人間の姿になった現比が、祖父の甚平を着て頭にてぬぐいを巻いていた。
お弁当用の卵焼きを作っている現比が振り返るまで、祖父がそこにいるような気がして、しばらく眺めていた。
「ん? 立栞? なんか言った?」
「なんでもない。……さつまいも、裏ごしするわね」
「うん?」
幼い頃、私が祖父にお手伝いがしたいとねだると、鉢で炒ったゴマをすったり、野菜の裏ごしなどの簡単な作業を任されていたのを思い出す。
どれも昔は楽しかった。
「立栞。上手だね」
「裏ごししてるだけでしょ」
「丁寧で綺麗な作業をする人の料理は美味しいんだ」
その言葉に既視感があった。
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