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一年前に他界した祖父を思いだし、空を見上げていると、父から電話がかかってきた。
『立栞か』
私のスマホの番号にかけたのだろうから、私で間違いないはずだ。
数日に一度は仕事の合間にかけてくる。
「そうですけど、なにかご用ですか……」
父からの電話はつい身構えて、他人行儀になってしまう。
『貯金もそろそろ尽きるだろう』
――なぜわかるのか。
私はドキッとして、スマホを落としかけた。
「そ、そんなことない!」
『諦めて帰ってきなさい。お前にいい結婚相手がいる』
その結婚相手は私にじゃなくて、父にとって都合のいい結婚相手である。
娘の結婚さえ、金儲けの手段なのだ。
「帰らないわ」
頑として拒み、いつもと同じ返事をした。
父が怒って、ここで会話が終わり、電話を切られるのだが、今日はため息が返ってくる。
『まあ、いい。お前はヒマだろう。死んだ親父の店を片付けてくれ。結局、俺があの不気味な家と店を相続することになってな』
――ああ、なるほど。これがため息の理由。
仕出し屋『山路』。
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