1 父の命令

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 一年前に他界した祖父を思いだし、空を見上げていると、父から電話がかかってきた。 『立栞(りつか)か』  私のスマホの番号にかけたのだろうから、私で間違いないはずだ。  数日に一度は仕事の合間にかけてくる。 「そうですけど、なにかご用ですか……」  父からの電話はつい身構えて、他人行儀になってしまう。 『貯金もそろそろ尽きるだろう』  ――なぜわかるのか。  私はドキッとして、スマホを落としかけた。 「そ、そんなことない!」 『諦めて帰ってきなさい。お前にいい結婚相手がいる』  その結婚相手は私にじゃなくて、父にとって都合のいい結婚相手である。  娘の結婚さえ、金儲けの手段なのだ。   「帰らないわ」  頑として拒み、いつもと同じ返事をした。  父が怒って、ここで会話が終わり、電話を切られるのだが、今日はため息が返ってくる。 『まあ、いい。お前はヒマだろう。死んだ親父の店を片付けてくれ。結局、俺があの不気味な家と店を相続することになってな』  ――ああ、なるほど。これがため息の理由。   仕出し屋『山路(やまじ)』。
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