5 銀杏黄葉

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 銀杏の形をした芋ようかんに目を落とし、現比は言った。 「銀杏というのは、古くからその形を変えずに残っている。古いから駄目だということはない。いいものは必ず誰かが残そうとする――そう彪助は言った」  その時の芋ようかんも銀杏の形をしていたのかもしれない。  現比が銀杏の型を差し出した理由がわかった気がした。 「……おじいちゃんらしいと思うわ」  蓮華楼の料理長は六代目。  老舗料亭というだけでなく、技と人を継ぐことになる。  相当のプレッシャーがあったと思う。  人を育てることに力をいれているのは、挫折して苦しかった時代があるからだ。  そのおかげか、料理人となった息子の評判はよく、次の代も無事に蓮華楼という名を残せそうだ。 「現比。私、この芋ようかんなら作れる気がする。明日、蓮華楼に作って持っていってもいい?」 「きっと喜ぶよ」  現比は嬉しそうに笑い、また芋ようかんを口に運んだ。  さつまいもは好物らしく、尻尾があったら動いていたと思うくらいご機嫌だった。  ――やっとひとつ作れた。少しだけ前に進めた気がする。  それも山路の芋ようかん。  私が作った芋ようかんは祖父が作ったものと同じ味がした。  それが嬉しかった。  金色の銀杏を口にして、今日も私たちは変わらない味を楽しむ。  懐かしい山路の味を。 【銀杏黄葉 了】
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