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銀杏の形をした芋ようかんに目を落とし、現比は言った。
「銀杏というのは、古くからその形を変えずに残っている。古いから駄目だということはない。いいものは必ず誰かが残そうとする――そう彪助は言った」
その時の芋ようかんも銀杏の形をしていたのかもしれない。
現比が銀杏の型を差し出した理由がわかった気がした。
「……おじいちゃんらしいと思うわ」
蓮華楼の料理長は六代目。
老舗料亭というだけでなく、技と人を継ぐことになる。
相当のプレッシャーがあったと思う。
人を育てることに力をいれているのは、挫折して苦しかった時代があるからだ。
そのおかげか、料理人となった息子の評判はよく、次の代も無事に蓮華楼という名を残せそうだ。
「現比。私、この芋ようかんなら作れる気がする。明日、蓮華楼に作って持っていってもいい?」
「きっと喜ぶよ」
現比は嬉しそうに笑い、また芋ようかんを口に運んだ。
さつまいもは好物らしく、尻尾があったら動いていたと思うくらいご機嫌だった。
――やっとひとつ作れた。少しだけ前に進めた気がする。
それも山路の芋ようかん。
私が作った芋ようかんは祖父が作ったものと同じ味がした。
それが嬉しかった。
金色の銀杏を口にして、今日も私たちは変わらない味を楽しむ。
懐かしい山路の味を。
【銀杏黄葉 了】
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