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祖父が経営していた仕出し屋で、市内では名の知れた老舗である。
店の歴史は料亭『吉浪』よりも古い。
死ぬ間際まで、祖父は包丁を握り、店を守っていた。
その祖父が一年前に亡くなり、財産をどうするか、父たちは揉めていた。
金銭的理由で揉めていたわけではない。
なぜ、話し合いが長引いていたかというと、祖父の家は古く、自宅兼店に続く道には広い竹林がある。
そこを抜ければ、賑やかな商店が並んでいるのだが、昔から祖父の家には、人間ではない『なにか』がいて、父たちはそれを恐れている。
――いい年して、お化けが怖いなんて。
しかも、父は拝金主義の現実主義者で幽霊なんて信じそうにない性格だ。
幼い時の体験が、どんなものだったのか知らないけど、祖父の家から逃げ出して、あまり近寄らなかった。
父の他の兄弟も帰る気はなく、同じように早々に家を出てしまっている。
『化け物がいる家だが、お前なら平気だろう。昔から親父と相性もいいし、よく通っていたからな』
「遊びに来る子供は多かったけど、化け物なんて見たことないわ」
『いるんだよ。化け物さえいなかったら、駐車場にでもしてやったのに』
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