1 父の命令

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 祖父が経営していた仕出し屋で、市内では名の知れた老舗である。  店の歴史は料亭『吉浪』よりも古い。  死ぬ間際まで、祖父は包丁を握り、店を守っていた。  その祖父が一年前に亡くなり、財産をどうするか、父たちは揉めていた。  金銭的理由で揉めていたわけではない。  なぜ、話し合いが長引いていたかというと、祖父の家は古く、自宅兼店に続く道には広い竹林がある。  そこを抜ければ、賑やかな商店が並んでいるのだが、昔から祖父の家には、人間ではない『なにか』がいて、父たちはそれを恐れている。  ――いい年して、お化けが怖いなんて。  しかも、父は拝金主義の現実主義者で幽霊なんて信じそうにない性格だ。  幼い時の体験が、どんなものだったのか知らないけど、祖父の家から逃げ出して、あまり近寄らなかった。  父の他の兄弟も帰る気はなく、同じように早々に家を出てしまっている。 『化け物がいる家だが、お前なら平気だろう。昔から親父と相性もいいし、よく通っていたからな』 「遊びに来る子供は多かったけど、化け物なんて見たことないわ」 『いるんだよ。化け物さえいなかったら、駐車場にでもしてやったのに』 
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