1 父の命令

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 電話越しで父はブツブツ文句を言っている。 『お前は仕事を辞め、結婚の予定もない。住む場所にも困ってる。まったくもって、ちょうどよかった。親父の遺品の整理と家を片付けてくれ』 「ちょっ……! 人を便利屋みたいに!」  父にとって利用できるものは徹底的に利用する。  自分が近寄りたくない家を私に片付けてもらおうというのである。   『見合いしてもいいが、どうする?』 「わかりました。おじいちゃんの家に行きます」  あっさり観念した。  お見合いより、引っ越しの面倒さを選んだ。  それにアパート代がかからなくなるのはありがたい。   『嫌になったら、いつでも連絡してこい。若い娘が住みたい場所でもないしな。すぐに嫌になって、結婚したくなるだろう』  父は言うだけ言って電話を切った。  私の返事を待たないのはいつものことで、一方的に話して終わる。  だから、合わないのだ。  でも、父を怒らせずに済んだのは、仕事を辞めてから初めてのことだった。  よほど父は祖父の家が苦手らしい。 「でも、たしかに不思議。おじいちゃんが言ってたとおりになったわ」 『自分が死んだら、立栞が家に住む』
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