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電話越しで父はブツブツ文句を言っている。
『お前は仕事を辞め、結婚の予定もない。住む場所にも困ってる。まったくもって、ちょうどよかった。親父の遺品の整理と家を片付けてくれ』
「ちょっ……! 人を便利屋みたいに!」
父にとって利用できるものは徹底的に利用する。
自分が近寄りたくない家を私に片付けてもらおうというのである。
『見合いしてもいいが、どうする?』
「わかりました。おじいちゃんの家に行きます」
あっさり観念した。
お見合いより、引っ越しの面倒さを選んだ。
それにアパート代がかからなくなるのはありがたい。
『嫌になったら、いつでも連絡してこい。若い娘が住みたい場所でもないしな。すぐに嫌になって、結婚したくなるだろう』
父は言うだけ言って電話を切った。
私の返事を待たないのはいつものことで、一方的に話して終わる。
だから、合わないのだ。
でも、父を怒らせずに済んだのは、仕事を辞めてから初めてのことだった。
よほど父は祖父の家が苦手らしい。
「でも、たしかに不思議。おじいちゃんが言ってたとおりになったわ」
『自分が死んだら、立栞が家に住む』
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