2 祖父の店

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 祖父の店である仕出し屋『山路(やまじ)』――店は江戸の頃からある仕出し屋で、冠婚葬祭といえば『山路』の料理と言われるくらいの店だった。  でも、それは昔の話。  時代とともに武家屋敷はなくなり、没落した武士たちは屋敷を売り飛ばし、やがて花街も消えていった。  冠婚葬祭で仕出しを利用する客は減り、店は仕出し弁当をメインにやるようになった。  でも、同じ仕出し屋から始まった吉浪(よしなみ)は仕出し屋から料亭となり、成功している。  今ではホテルに店舗を持つ。  海外にも進出しようかという話も出ていた。  ――お父さんは祖父の家がよくないと言っていたけど。  一族で店を守る吉浪に対して、うちの山路では父たちが化け物がいるとか言って近寄らない。  近所の人はそんなこと誰も言わないのに、父たちだけが怖がっているのだ。  ――おじいちゃんの店を継ぎたくないから、あんなこと言ってただけかも。    どこまで冗談で言っているのかわからない。   「私は幽霊なんて見たことないし、化け物にだって会ったことないわよ」  父たちが嫌がる祖父の家へ引っ越しは、下見をしてから準備を進めようと思った。
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