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祖父の店である仕出し屋『山路』――店は江戸の頃からある仕出し屋で、冠婚葬祭といえば『山路』の料理と言われるくらいの店だった。
でも、それは昔の話。
時代とともに武家屋敷はなくなり、没落した武士たちは屋敷を売り飛ばし、やがて花街も消えていった。
冠婚葬祭で仕出しを利用する客は減り、店は仕出し弁当をメインにやるようになった。
でも、同じ仕出し屋から始まった吉浪は仕出し屋から料亭となり、成功している。
今ではホテルに店舗を持つ。
海外にも進出しようかという話も出ていた。
――お父さんは祖父の家がよくないと言っていたけど。
一族で店を守る吉浪に対して、うちの山路では父たちが化け物がいるとか言って近寄らない。
近所の人はそんなこと誰も言わないのに、父たちだけが怖がっているのだ。
――おじいちゃんの店を継ぎたくないから、あんなこと言ってただけかも。
どこまで冗談で言っているのかわからない。
「私は幽霊なんて見たことないし、化け物にだって会ったことないわよ」
父たちが嫌がる祖父の家へ引っ越しは、下見をしてから準備を進めようと思った。
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