2 祖父の店

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 なにしろ、しばらく誰も住んでいなかったのである。  今住んでいるアパートから祖父の家までバスで三十分。  往復するのも面倒だったので、数日分の着替えを用意し、泊まり込んで準備をすることにした。  今日は掃除をしてから、必要な物をリストアップし、生活を整えてから本格的に引っ越す予定だ。  ――とはいえ、予定は未定。どれだけ今日のうちに進められるかわからないわ。  吉浪を辞めてからこの調子で、あんなガツガツ働いていたのが嘘のようだ。  祖父の家近くのバス停のアナウンスが流れ、ボタンを押した。  金色の銀杏並木が続く大通りに、バスが止まる。  大通りに沿ったところには、山路の看板があった。  黒い瓦がついた石垣の塀にある白い看板。  夜になれば、淡い光を灯す。 「……店が開いていればだけどね」  祖父が亡くなってから、この看板が灯ることはなくなった。  大通りから中に入る山路の敷地には、鬱蒼とした竹藪が続く。  背の高い竹林が、風に揺れ、音を鳴らす。  この竹林の小径は車一台分が通れる幅があり、父などは歩かずに車で乗り込んでくる。  なにかおかしなものが見えると言って、歩くのを嫌うのだ。
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